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307 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/05/22(日) 00 53 59.43 ID Fk6raj470 【SS/大学生京介の同棲疑惑】 桐乃スレ45-140様および145様の構成を元に、勝手ながらSSを作成いたしました。 妄想主の希望に近い展開であったら幸いです。 ――――――――オープニング―――――――――― 高校を卒業し、東京都(とっても23区外だけどよ)にある○○大学に通う大学生となった俺、1年半前までは平凡な人生を歩んできた高坂京介。 今、季節は初夏。新生活にも馴染み初め、徐々に勉強漬けだった1年前の生活と180度違う環境を楽しめるようになってきた。 そう、当初、入学するはずだった地元の国立大学を蹴り、更にワンランク上の東京の大学を受験し、見事現役で合格した。 こういう風に現状に甘んじず、上を目指そうと思ったのは、一番身近な頑張り屋の影響であることは否定しない。 でも、合格しても浮かれてばっかりにはいかなかった。 それはそれは深刻な二つの問題点があって、その一つが通学するのに1時間半位かかることだ。 通えない距離でもないので、サラリーマンよろしく長距離通学を覚悟した矢先、両親から薦めてもらい自由な一人暮らしすることが許された。 よし、オーケィ、一つ目の問題点はクリアできた。だが、もう一つの問題点である『桐乃』はどうか。 もう自認しているが、重度のシスコン野郎である俺は、桐乃と離ればなれになる事を恐れたわけだ。 しかーし、決して桐乃と毎日逢えなくなるのが淋しくて辛いわけじゃない。あいつに近づく男がいてもブン殴れないのが悔しいのである!! チクショウ!!こんな事なら麻奈実と一緒の地元大学に入学するんだった!! 桐乃は、そんな俺の気持ちを察してか、大学合格し、一人暮らしをすることが決まった後、こう言ってきた。 「京介、あんたは病的なシスコンだから、あんまり逢えない時間が長いと、久々に帰った来た時に、あたしが襲われるかも知れないし…。だから、毎週そっちに行ってあげるから感謝しなさいね!!」 「ふぇ!!」 「キモい声出すな!!あたしが居ないと寂しくて死んじゃうんでしょ!?あたしも襲われないし、京介も死なないし良いこと尽くめじゃん!!」 顔を焼きリンゴみたいに真っ赤にして俺を励ます桐乃が可愛くて愛おしくて死にそうになった。 「…、桐乃?やっぱり、お前が一番だな!!俺は、桐乃の一番傍に居れて本当に嬉しいぞ!!」 「!!!!!!!!!!!」 不意に抱き着こうとしたら、俺の胸を両手で突き飛ばし、急いでリビングから出て、ドタドタと自室まで戻っていった。 その後、なぜか桐乃主導で、俺の住む場所を相当こだわった条件のもと決め (オートロック、間取りは絶対に1LDK、宅配ボックス付、脱衣所付、と社会人並のスペックを要求され、相当難儀したんだが…) いざ、大学に入学したものの、知ってるやつは一人も居ないし、当初は不安だらけだった。 けど、体育会、文化会、サークル合同の新入生歓迎会(各々が自分たちはどういう事をやっているか説明するプレゼンの場だ) の後にふと目についた『写真』サークルへの入会が俺の大きな転機となった。 「写真」なんてこれっぽっちも興味はなかったが、桐乃の笑顔を向けているその先にカメラマンがいることを考えると心中穏やかじゃなくなる自分がいた。 水着やミニスカ、その他、露出が多い写真を撮るときに、撮影者はどんな気持なのか? 勿論、プロだし、中学生ごときに欲情するはずもないと思うが、実の兄か異性としても意識せざるおえない魅力を持っている桐乃ならば…? と、写真サークルの案内版の前で悶々と考えていると、超絶イケメンが声を掛けてきた。 「君、写真を撮ることに興味があるのかい?」 「いえ、身近な奴がモデルでして…。そんで、撮影する側はどんな気持ちなのかと思っていたんですが…」 「へぇ、奇遇だね。実は僕の弟がモデルでさ。でも、普通の雑誌だけじゃなく、こすぷれ?ってやつも嗜むんだよ」 「そうなん…、すか」 「どうかな。もし時間が空いているなら、我がサークルの説明をちょっとだけ聞いていかないかい?」 こうして俺は写真サークルへ入ることになった。 この事を家族や友人たちに話をした時の周りの反応は、親父以外、酷いものばかりだった。 お袋には親子そろって桐乃の写真を撮るのかと冷やかされた。(←将来的にはそうなると思う) あやせには犯罪者と断定されたうえで通報されかけた。(←思い出しただけでも泣きそう) 黒猫や沙織には桐乃が居るにも関わらず『独占欲が天元突破したシスコン兄貴』と罵られた。(←否定できなかった) 肝心の桐乃は顔を下に向け表情を伺い知ることはできなかったが…、全身をワナワナと震わせていたから怒ってたのかも知れねーな。 …、とまぁ、そんなこんなで今に至るわけだ。 ―――――――――本編――――――――――― 今日は金曜日、サークルで仲良くなった同期2名を初めてウチに招待し、とある疑惑を晴らす日だ。 実は、頑なに俺が部屋に誰も入れないせいで、彼女との同棲疑惑が持ち上がってしまったわけだ。 勿論、あの約束がある以上、俺には彼女なんていない。 それでも部屋に入れられない原因は押しかけ女房みたいに毎週やってくる桐乃だ。 仕方ねーだろ、桐乃のやつが自分の荷物をどんどん持ち込みやがってよ…。 可愛らしい小物入れ、インテリア、クッション、スリッパ、歯ブラシセット、食器…。と、この位はまぁ良いとしよう。 他にも、入浴なんかしたことねーのに入浴セット、泊まったことなんてねーのに、枕とかブランケット等々、いつ使うんだよっていう代物まであるんだぜ。 正直、俺の私物より多い気がする…。 まぁ、俺も俺で冷蔵庫にプリクラ貼ったり、机の上にツーショット写真を飾ったりしているもだからよ、 傍から見たら彼女とラブラブ同棲しているとしか思えない状況。 てなわけで、あらぬ疑いを掛けられぬよう昨日の夜、桐乃グッズを一通り風呂場に格納し、女のニオイを消し去り、男一人の生活に見せる工作を施し今日を迎えた。 「へぇ、良いとこに住んでるんだな、高坂」 「それほどでもねーよ」 オートロックのエントランスを通り、エレベーターで4階にある我が部屋の前にたどり着き、扉の鍵を開けて部屋の中に入ると…。 「…?」 おかしい、週に2日だけ漂う女の子の部屋って感じの凄く良いニオイがする。 「あれ、あいつの靴があるぞ…」 足元を見ると女物の可愛らしいミュールが行儀よく2足並んでいた。 「ねぇ京介、勝手にあたしの荷物片づけたでしょ!?」 俺が返ってきたことを察したのかリビングの扉が開き、露出の多いミニスカ姿で魅力的な太ももが露わな恰好をしたモデル様がこちらに近づいてきた。 「桐乃!?お前、なんで今日来てんの!?」 「それは…、今日あたしの学校が創立記念日で休みだからだケド…」 俺が突っ込むと、視線を逸らし、ちょっと気まずそうにしている桐乃。 やべぇ、くぁわいいじゃねーか、俺死ぬぞ!! 「すんげー、美人!!高坂、お前やっぱり彼女と同棲してんじゃん!!」 「こんな超可愛い子が居たら、お前がサークルで女子にがっつかないのも分るわ」 そうだろ、絶美人だろ、超可愛いだろ!? 俺の彼女だったらどれだけ良いか。だがな、現実は非情なんだよ!! 「お前ら、落ち付け。こいつは俺の『妹』だ!!」 「ちょ…。んな…、キッパリ…、…ないじゃん…」 桐乃は小声でボソボソと呟いている。ちょっと前まで機嫌良かったのに、拗ねちまったのか? もしかして、俺たちの部屋に勝手に野郎2名を呼んだことを怒ってんのか? すまん、桐乃。どうしてもサークルメンバーに俺の同棲疑惑を晴らす必要があってよ…。 「そんな下手な嘘つくんじゃねーよ、全然似てねーじゃねーか」 「どう見ても他人です。本当にありがとうございました」 何度言われたかその『似てない』って科白。いい加減、聞き飽きたぜ!! 「嘘じゃねーし。なぁ、桐乃。この2人に説明してくれよ」 「あれぇ、京介どうしたの?あぁ、そっか~。今日は『兄妹』ってことにするって話だったね」 不意に、腕を絡めて胸を俺の肘に押し付けてくる桐乃。 「ねっ、おにいちゃん!!」 「…おま!?」 満面の笑顔で俺を『お兄ちゃん』と呼んだ桐乃。演技だと判っているのに、くやしい、嬉しくて顔が歪んじゃう!! 「兄妹プレイかよ!!マニアックすぎるぜ高坂!!」 「…、プププ。ごめんなさい。兄貴をからかいたくって少し意地悪をしてしまいました」 桐乃は俺をからかって満足したのか、絡めていた腕を解き、同期2名に向かってペコリと頭を下げた。 「初めまして、あたしは『高坂桐乃』。京介の一応、『妹』です」 「こちらこそ、どうも。へぇー、良かったな高坂。そういう事にしてもらえてよ」 「だーから、違うっての!!」 「それにしてもマジでカワイイな。もし本当にお前の妹なら俺に紹介してくれよ」 「ダメだ!!」 俺はクワッと、あんまりデカくない目を見開いて猛獣2匹を威圧してやった。 「即答かよ!!」 「おまえら、さっきから俺の妹を厭らしい目で見やがって」 俺の目は誤魔化せねーからな!!おまえらが桐乃の太ももをチラチラ見てやがるのはよ!! 「おいおい、チラっと見ただけだろ」 「少しでもダメだ!!」 「もう、あたしは気にしないって。そんなの、いつもの事だし」 いつもだとー!!ぬがぁー、許せん。世の男共は俺の大切な桐乃を何だと思ってんだ!! 「桐乃ちゃんは心が広いねー。まぁ、こいつも普段は寛大なヤツなんだけど。」 「桐乃ちゃんとか言うな。馴れ馴れしく近づくな、話しかけんな!!桐乃がよくても俺がダメだ!!いいか、てめぇら、よーく聞け!!桐乃に近づいていい『男』は俺だけだ、桐乃は俺だけのもんだ!!!」 「…、京介?」 「ハッ…!?」 耳まで真っ赤にして恥ずかしかがる桐乃を見て俺は我に返った。 「分った、分った。俺たち、もう帰るわ。すまんね、カップルの時間を邪魔しちまって」 「お前ら…、何度言わせるつもりだ!!」 「だから、分ってるって!!サークルのみんなにはこう言っておくよ。現在、妹?と同棲中。そんで、シスコンだから妹?以外に興味がないって!!」 「待てーぃ!!」 我が同期2名はこっちを厭らしい目で覗き見るようにゆっくりと玄関ドアを閉めて帰っていった。 聞き耳を立てているような予感がして玄関ドアを開いてみたが素直に帰ってくれたようだ…。 「ああああああああああああ!!!!」 玄関ドアを閉め、リビングにあるクッションに顔をうずめ、思わず叫んでみたが過去は何も変わらねー!! 終わった、俺の大学生活オワタ\(^o^)/ 完全に誤解された。彼女と同棲していることは間違いだと証明されたが、妹と同棲しているというトンデモナイ誤解が生まれた。 しかも、桐乃は俺のものなんて超はずかしい科白をはいちゃったよ、俺!? もう駄目だ、明日からあだ名がシスコンになっちまう…。 「もしかして、あたしが彼女だって思われて落ち込んでるの?それともシスコンってバレたから?」 「………」 「そっか、同棲してるってこともかぁ…」 「………」 「フヒヒ。もう、そんなに落ち込むなっつーの。『全部本当の事』でしょ?」 「シスコン以外は違うだろ?」 俺に追い打ちを仕掛ける桐乃の口撃を無視してたが、『全部本当』なんて冗談は流石に聞き逃せなかった。 「やっと口聞いたね。でも、これで判ったでしょ?あんたが授業参観に来た一年前、あたしがクラスメイトの前でどんだけ恥掻いたかって」 「ぐす…、そうだな。全力で逃げ出したくなるぜ…」 ちきしょう、俺が大恥かいてやたら嬉しそうじゃねーか。 また一つ、桐乃に弱みを握られちまった…。 今すぐ桐乃とあいつらの記憶を消し去りたい!!そんで俺の記憶も消し去りたい!! ああああ、どうにもならんが、どうにかしたい…。 「桐乃!?」 気が付くと、桐乃は後ろからあの時と同じように暖かく優しく抱擁をしてくれていた。 「京介、こうされるのは嫌、かな…?」 「もうちょっとだけこうしていただけると助かります、桐乃さん」 「しょーがないな、この甘えん坊は」 「なぁ…、桐乃?」 「なーぁに、京介?」 「お前、9か月前よりおっぱいでかくなった?」 「エロ、バカ、変態!!妹にセクハラ発言すんな!!」 「バカ、兄に向ってセクハラとは何だ!!こういう風に後ろから抱き着かれると、どうしても体がくっついてる場所を意識しちまうんだよ!!」 「あたしは、あんたが落ち込んでるから慰めてあげようって思っただけなのに、そういうエロい感想しか言えないワケ!!」 「グッ…」 「さっきは、友達のまえで『俺の妹を厭らしい目で見るな』って叫んでたのに!!京介が一番そういう目であたしを見てるじゃん!!」 「反論の余地もございません。申し訳ございませんでした」 「でも…。ちょっと恥ずかしいけど、京介なら良いよ。それに、あたしも、ちょっと嬉しいし…」 「んっ…、何でだよ…!?」 「それは…、言わせんな、察しろっての!!」 「ぐぇ、アームロックは止めて、じぬ…」 その後、普通の仲のいい兄妹なら当然の流れで、腕を組みつつ買い物に出かけ、お袋直伝のカレーを二人で作って食べたり、 桐乃がアマゾンで発注してココに届いた新作エロゲを肘をくっ付けながらプレイしたりして夕方まで過ごした。 FIN? 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569 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2012/02/10(金) 19 22 40.94 ID ywiM5lez0 [1/6] 受験生の鑑たる俺が勉強机に向かっている正にその時、沈黙を破る呼び鈴が鳴り響いた。 予感を感じて時計を見ると、短針は2時を差している。 やれやれ……。あいつは俺が一人暮らしを始めた理由がわかってんのか? 呆れて溜息を一つつくが、急かすように響く2度目の呼び鈴は俺の思考さえも許してくれない。 仕方ねえ。 肩をすくめて立ち上がり、俺はしかめっ面で待ってるであろう、玄関先の来訪者を迎えに行った。 「遅い! シスコンの癖に妹を待たせるとか、マジありえないんですケド」 「……やっぱりお前かよ」 玄関で早速言葉の刃をぶつけてきたのは、桐乃だった。 やっぱり、というのも、俺は玄関のドアを開ける前……いや、その前の急かすような二度目の呼び鈴の前ですら、来訪者の正体を見抜いて いたのだ。 ……とかもったいぶった言い方をしてもしかたねぇ。理由は簡単。 最近、休みの日になると必ず、昼過ぎに桐乃がここへ顔を出すようになったのだ。 「……なによ、なんか不満なの? こーんな可愛い妹が遊びに来てやってんのに」 「いえいえ。めっそーも御座いません。んじゃま、とりあえず上がれ」 なによその態度! などなど後ろから罵声なのか独り言なのか判然としない声が聞こえるが、それもいつもの通り。 これに一言一言反応してたんじゃ、俺の身が持たないって。 俺は最近、お袋の言い付けで一人暮らしを始める事になっちまった。 何でそうなったかって―と、正直話すと長くなるので割愛したい。ただ、直接的な理由は【俺と桐乃の関係】にあるとだけ、言っておこう 。 ――あー、冷蔵庫のプリクラはやっぱりやり過ぎだったか。ちょっとノリに任せて余計な事をしちまったかもしれない。 「んで? 今日は何の用だ?」 勉強机に座りなおして、一応ながら聞いてやる。まあ、聞かなくても分かってはいるんだが。 「何って、エロゲーに決まってるじゃん」 ですよねー。 そう。このエロゲー大好き中学生こと高坂桐乃は、母親から【妹と近づき過ぎないように】との目的で一人暮らしを始めさせられた兄のも とへ、【エロゲーがやりやすいから】というだけの理由で入り浸っているのだ。 つか、普通に駄目だろ、これ。 「桐乃、別に俺は来るなとは言わねぇけどさ。大丈夫なのか? お袋に怪しまれてないのか?」 「だーいじょうぶだって♪ 今日だってあやせの家に行くって言って出てきたもん」 なんつー恐ろしい事をしやがるんだこいつは。 もし仮に、ちょっとでも帰りが遅くなってお袋があやせの家に電話でもかけようものなら。 お袋とあやせ。 2人の修羅が、この俺ただ一人を目指してこの部屋に侵攻してくるってわけだ。 マジで勘弁してくれ。 「お前、今日は早く帰れよ?」 「さーねー。あんたがこのシナリオクリアしたら帰ってあげよっかな」 ちくしょう。こいつは俺の危機的状況を何ひとつ理解していやがらねぇ。 勉強だってしなきゃならないんだし、とっとと終わらせて帰らせることにするか。 「おーし、じゃあやってやろうじゃねぇか。お前から借りた数々のエロゲーで鍛えた俺をなめるんじゃねぇぞ」 「はぁ? あんたなんかエロゲーマーの底辺にも達してないわよ。このあたしが特に目を掛けて育ててやってるんだから、とっとと1人で CG回収くらい出来るようになれっての」 こ、このやろう……。いい度胸じゃねぇか。見せてやるぜ! シスコンをはっきりと自覚したこの俺の、脅威のエロゲー捌きを! 「だぁから、違うって言ってんでしょ!? なんであんたは『仕方ない』って選択肢ばっかり選ぶの! 兄妹だろうがなんだろうが、愛が あれば大丈夫なの!」 「おまっ! 大丈夫なわけ無いだろ!? 覚悟も無ぇで、んなこと!」 「あぁもーあんたはほんっと駄目! ぜんっぜんエロゲーに向いてない。ちょっとコントローラー貸しなさいよ!」 「馬鹿っ! 俺がやってるデータだぞ! きりりんたんは俺が幸せにするんだよ!」 「あんたじゃ幸せに出来ないから貸せってんでしょぉ!」 結局こうなっちまった。 俺の選ぶ選択肢と桐乃の選ぶ選択肢はことごとく違う選択肢で、俺の進める通りに行くと必ずバッドエンドが待っている。 くそぉ。おかしくねーか? このゲーム。なんで妹と結ばれなかっただけで、あんなに不幸がドッと舞い降りて来るんだよ。 「当たり前じゃん? 本当の気持ちを押し殺して迎えた未来なんて、どうやったって幸せになんかなれないよ」 ぽつりと零れた桐乃の言葉は、何だか寂しげな響きを纏っていた。 結局コントローラーの取り合いには俺が勝利し、たった今、本日3つめのバッドエンドを迎えたのだ。 内容は……プレイヤーは安心できるだけの彼女と結婚し、後に離婚。一人で寂しい余生を過ごす。 妹は兄への気持ちを忘れる事が出来ずに外国へ。その後、一切の連絡を取る事が出来なくなった、だそうだ。 「好きな人とは一緒にいるのが自然なの。周りがとやかく言うからって、仕方なく離れたりトカ……ホントありえない」 苛立ちを露わにするように呟く桐乃。下唇を強く噛んで、痛々しい。 「お、おい。悪かったから、そんなに唇を」 「あんたはほんっと下手! あたしに貸せっ!」 完全に油断していた俺に、桐乃が襲い掛かる。 おわっ! なんでこいつこんなに必死になってやがるんだ! 先手を取られて体勢不利になったままじゃ耐えられないって! 「おわっ」 「っ!」 桐乃の全体重を掛けての攻撃にあえなく陥落した俺は、後ろに倒れこんでしまった。 いってー! 頭打ったじゃねぇか! 桐乃はどこもぶつけてねぇだろうな? そう思って顔を上げようとしたが。 ……え、あれ? な、なんだか柔らかい感触が胸の辺りに……。 「ん、なっ!」 目を開けると、かなりやばい体勢になっていた。 俺が桐乃にビンタされたあの状態の、いわゆる逆バージョンだ。 俺が下に寝ていて、上から桐乃が密着状態で覆い被さっている。男性が下になっている分まだ卑猥さは軽減されて感じるが、客観的に見て みればどっちでも関係なくヤバい。 「す、すまん! すぐに退くから」 どっかで聞いたような台詞を吐いて、もぞもぞと動いてみる。 しかし、動くたびに桐乃の甘い香りが鼻をくすぐる。柔らかい感触は形を変えながらその存在を更に主張する。 や、ヤバイ。これはマジでヤバイ。このままでは……気付かれる。 妹に欲情する変態野郎だって気付かれちまう! ぐおおおお! 鎮まれ、俺の海綿体! 頼むから抜け出すまで、それまでで良いから眠っててくれぇ! 「つか、桐乃、どうした? お前は動けるはずじゃ……っ!」 その後の言葉を紡ぐ事は出来なかった。 一言も発さなかった桐乃は、無言のまま、顔を伏せたまま……俺に感情を見せないままで、抱きしめてきた。 心臓が大きく跳ね、顔に血が上るのが分かる。 「き、桐乃……?」 恐る恐る、声を掛ける。 「……駄目なの?」 やっと発した桐乃の声は、消え入りそうなものだった。 意味が理解できない俺は、ただ桐乃の言葉を待つ。 「何で遊びに来ちゃ駄目なのっ!?」 家具の殆ど無い部屋は、桐乃の叫びをより際だたせた。 「お母さんもお父さんも、何でそんなこと言うの? 好きな人と一緒にいる事の、どこがそんなにいけないの!?」 「桐乃……」 「あんただって!」 そう言って見つめる瞳が涙に濡れていることに気付き、俺は何も言えなくなる。 「仕方ないとか、しょーがねーだろとか、なに言ってんの? 兄妹が仲良かったらそんなに駄目なの?」 駄目なんかじゃない。 アメリカのとき、偽彼氏事件のとき、黒猫のとき。俺は確信したじゃねーか。 桐乃が大事で大事で、大好きで大好きで仕方が無い。 これが俺だって。これが俺の、偽らざる気持ちだって! 桐乃はずっと、俺の一人暮らしに反対だったんだ。だからお袋の言い付けも聞かず、敢えてここに遊びに来ていた。 いや、それだけが理由じゃない、か。 「桐乃」 「……なによ」 ぐずぐずと鼻を鳴らしながら、俯いて答える。 「悪かった、俺も同じ気持ちだ。お前と一緒にいることは、何にもおかしいことじゃない」 「……うそつき」 取り付く島も無い。そりゃそうだ。俺はここまでの行動で、散々桐乃の期待を裏切っちまった。 だが……俺は完全に吹っ切れた。 自分の好きな女にここまで言わせておいて動かずにいられるほど、俺はぼんくらじゃないつもりだ。 「嘘なんかついてね―よ。俺はお前が彼氏を作るのなんてイヤだって言ったがな。……本当は俺がお前の彼氏になれればと思ってたんだよ 」 「……嘘! じゃあなんでゲームであんなこと言ったの!? あたしが一体どんな気持ちで……」 「違う! ゲームとお前とじゃ全然違うんだよ! ゲームの中の妹はただの妹だろ! だけどお前は……桐乃は、俺にとって全然違う存在 じゃねぇか!」 そうだよ。あんなゲームでわかるわけがねぇんだ。 あれは『ただの妹』だ。俺の選択肢は、全く間違っていなかった。 だけど、俺が好きなのは、こいつだけなんだ。 俺の本当に選ぶべき選択肢は、こいつの為だけにあるんだ! 「きょ、京介……」 「桐乃、手を貸せ!」 「は?え、ちょっと……」 殆ど馬乗り状態になっている桐乃の手を取り、『そこ』に触れさせた。 そこ。俺の滾る情熱の権化。桐乃への想い、劣情、欲望、色んな物が詰まったその場所。 そう。俺の股間だ。 俺の情熱に触れた桐乃は、ほとばしる熱さが移ってしまったのか、顔を爆発せんばかりに赤くして震え出す。 「ばっ!なっ!ちょ、は、ななななななんあんたなんなん……!」 無論、俺の桐乃への情熱は見事な剛直を保っていた。 恐らく初めて触れたであろうその感触に、真っ赤になりながらも動く事すら出来ずに固まっている。 「わかったか! 俺は桐乃が好きで好きで好きで好きで、ちょっとくっついていただけでこんな有様だ! 兄妹なんだから仕方が無い? 知るかそんな事!」 「あ、あんた、自分がなにやってるか、わかってる!?」 目をぐるぐるにしながら、桐乃が怒鳴る。 でも手は動かない。 「分かってるよ! だがなぁ、こんなになっちまうのが男の性とはいえ、俺の本当の望みはお前を抱く事じゃない」 「……へ、は?」 その手を強く握り締め、強く引き寄せる。 同時に上体を起こした俺と桐乃は、座りながらに抱き合うような形になった。 「きょ、京介……」 「桐乃、悪かった。お前を不安にさせてたって、また気付いてなかった」 全く、本当に俺という男はどうしようもない。 一体何度、好きな女を泣かせれば気が済むんだ。 「だから、俺とお前の『仕方ない』を、ぶっ潰してやる」 「ぶっ潰すって、どう、やって? ……あっ」 見詰め合う。 桃色に染めた頬。所在無げに動く唇。とろんと蕩けた瞳。 段段と近づいて来る、愛しい桐乃の顔。 そう。これは俺と桐乃にとって、絶対に超えられなかった、大きな壁。 全然大した事のないものだった。 俺に勇気と覚悟があれば、いくらだって乗り越えていけたものだったんだ。 そう。覚悟。 兄妹だろうが、愛さえあれば問題ない! その覚悟だ! 心の中で強く気持ちを噛み締め、俺は桐乃に微笑む。 「……そうだな」 さあ、今日から始めよう。 もどかしい壁のぶっ壊れた、あるべき世界を。 「目を閉じれば、分かるよ」 -------------
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340 名前:【SS】[sage] 投稿日:2011/04/09(土) 12 43 10.60 ID G+jtU5eZ0 [1/10] たすたす……たすたす 「んー……?」 控えめに扉を蹴る音で目が覚めた。 気だるく体を起こし、時計を探る。どうやらちょっと横になっている隙に睡魔に襲われたようだ。目覚し時計の短針は11を指している。 たすたす……だんだん! 痺れを切らしてきたのか、足ノックが激しい音に変わりつつある。 「っとと……おう。なんだ?入れよー」 最低限の体裁だけを整えて、我ながら面倒くさそうな声で招いた。 すると、言い終わるか否かの速さでドアが開き、我が傍若無人の妹様……高坂桐乃が体を滑り込ませてくる。 後ろ手にドアを閉めると、整った眉目でキッとばかりにこちらを睨み付ける。 ……って、なんでちょっと涙目なんですか?桐乃さん……? 「この、馬鹿!変態!ノロマ!グズ!!何でもっと速く返事しないのよ!?あんたシスコンでしょ?シスコン兄貴が可愛い妹を暗い廊下に長い時間放置して、良く平気でいられるわね!?信じらんない!マジ信じらんないっ!!」 「お、おい!何をそんなにいきり立ってるんだお前……!つか大声出すなっ!親父が起き出すだろ!」 「うるさいキモイ!」 取り付く島もなく言い放つと、先ほどまで俺の寝ていた布団をベッドから引き摺り下ろし、包まり出す。 そしてキョロキョロと周りを伺うと、寄る辺を探すようにふらふらと彷徨い出す。 「あのなぁ……なんでお前はひとの部屋に怒鳴り込んできて幽霊の真似事してるんだ?」 幽霊、という単語が出た瞬間、クラゲよろしく彷徨っていた桐乃がビクリと固まる。 「な、ななななによ幽霊って!そんなもの居るわけないでしょー!?ああああああんた、幽霊見たことあるっての?」 「何だお前、寒いのか?すげぇ震えてるぞ……」 「るさいっ!寒くなんか無いわよ!震えても居ない!」 「どう見ても震えてんだろ……」 まったく。なんだってこいつはこんなに意固地になってるんだ?桐乃の安眠妨害は今に始まった事じゃないが、なんだか分からないままに怒鳴られ続けているのはやっぱり癪だ。 「お前、ちったあ時間とか、俺の都合とか考えてだなぁ」 「それより、早くあたしの質問に答えなさいよ……!」 「はぁ?」 俺の正当な訴えがぶった切られる。 「……っ!だから!あ、あんたは、幽霊見たことあるのかって……」 ……こいつ、もしかして……。 今日の晩メシ後、1階で見ていたテレビを思い出す。 341 名前:【SS】2/5[sage] 投稿日:2011/04/09(土) 12 45 13.04 ID G+jtU5eZ0 [2/10] 子供騙しみたいなホラードキュメントだ。 部屋で寝ていると、キシキシと、何かが歩み寄るかのような音が聞こえ出す……とかって始まりだった気がする。 あんまり真面目に見ていなかったので良く覚えては居ないが、廊下に出てもその音が家中に響き、どこから何が迫ってくるか分からない恐怖の中で、リポーター達がわざとらしく逃げ出して終わり……だったか。 「桐乃……お前、幽霊が怖いのか?」 「ばっ……!」 桐乃のにくったらしい顔が見る見る赤く染まる。 「馬っ鹿じゃないの!あたしが、このあたしが幽霊なんか怖がるわけ無いでしょ?マジキモすぎ。妹が幽霊怖がって自分を頼ってきてるーとか、ちょっと嬉しかったりするんでしょこのシスコン兄貴!!」 こ、こいつ……!なんで俺がここまで罵られなきゃならんのだ。 ……良いだろう。怖くないってんなら、ちょっくら試してやろうじゃないか。 「ん……?桐乃、どっからか音が聞こえないか?」 「ふぁっ!?」 ……おいおいおい、何だその言葉にならない声は? 「な、なによ……何にも聞こえないわよ……!」 「いや、なんだろう、まるで何かが歩み寄ってくるかのような、キシッ……キシッ……って音が……どこから聞こえるんだ?この音」 「う、嘘っ?嘘でしょ兄貴!?」 「嘘じゃねぇって!……こっちか?」 俺が扉の方を指差すと、桐乃は飛び退くように後ずさる。 「いや、こっちか?」 「ふぁああ!」 「お?こっちからも聞こえるような」 「ひぃぁぁ!」 桐乃は四辺をパタパタと行き来していたが、とうとう行く場所がなくなったのか、部屋の中央に座り込んだ。 そして、頭から布団を被り、うずくまってしまう。 「う、うあぁぁぁ……」 げぇっ!本気で泣かしちまった!? 「きっ桐乃!大丈夫だ、大丈夫だぞ!?もう音は聞こえないからな?」 「兄貴、あにきぃ……どこぉ……」 かぶりを振りながら(布団がもぞもぞ蠢いているようにしか見えない)、這いずるように俺を探し求める。 「ああすまん、ここにいるぞ、桐乃」 頭があるであろう膨らみの前に膝を付き、耳元で聞こえるように伝える。 声を聞くと同時に布団の下から手が生え、俺の手を握り締めた。 342 名前:【SS】3/5[sage] 投稿日:2011/04/09(土) 12 47 56.39 ID G+jtU5eZ0 [3/10] 「兄貴、あにき……」 「……ごめんな、桐乃。幽霊なんて居ない。ここに居るのは、俺と桐乃だけだ」 慰めるように話してやると、桐乃が恐る恐る顔を出す。 その顔は、本当に久しぶりに見た桐乃の泣き顔で……火照ってピンク色に染まる頬、上目遣いで助けを求める涙目は、憎たらしかった筈の【妹】の顔を、守るべき【女の子】の顔の様に見せた。 心臓が大きく脈打ち出す。 (ば、馬鹿野郎、俺!妹だぞっ!桐乃は俺の妹じゃねぇか!何をこんなにドキドキする必要がある!?) 「ホントに?ホントに大丈夫?」 可愛らしく尋ねる桐乃の声に、またもや心臓が大きく跳ねる。 「お、おう!……ごめんな桐乃。こんなに怖がらせるつもりじゃなかったんだ。ちょっとからかってやったら、いっしょに騒げて楽しいんじゃねぇかって……すまん!この通りだ!」 俺はきょとんとする桐乃の目の前で土下座する。 そうだ。俺は桐乃を守ってやらなければならない男じゃないか。逆に桐乃を泣かせるなんて、最低だ。 「本当にすまないと思ってる。なんだってする。許してくれ、この通りだ」 暫く呆然と眺めていた桐乃だが、不意に薄く微笑む。 「本当に、なんでも?」 「ああ、本当に、なんでもだ!」 間髪居れずに俺が答えると、その従順さに満足がいったのか満面の笑みを見せる。 (ぐぁっ……!無茶苦茶可愛いじゃねぇか……!) 「じゃああんた、今日は、あたしと一緒に寝なさい!」 ビシッと指差したかと思うと、桐乃が威勢良く……。 威勢良く……? 「はあああああああああああああああ?」 「なっなによ!……あんたが幽霊の話とかするから、なんだか寒くなっちゃったの!あんたのせいなんだからね!あんたが責任とって暖めてくれないとダメでしょ!?」 「だ、だからって……一緒の布団で……く、くっついて寝るってことだろ?やばいんじゃねぇかそれは!?」 「キ、キモッ!何キモイ言い方してんの!?し、シスコン!シスコンもここまでくるとホント犯罪ね!あんた妹にどんだけ欲情してんのよ!?」 そう言う桐乃の顔は、燃え出さんばかりに真っ赤に染まっている。いや、桐乃だけじゃないか、俺の顔も耳まで熱い。これでは欲情していると言われても全く反論できない。 「キモイこと考える暇があったら、ちゃんとあたしに尽くすことを考えなさい!今日のあんたはあたしの召使なんだからね!あー兄貴のせいで寒いなー……」 ジト目でそんなことを口走る。 343 名前:【SS】4/5[sage] 投稿日:2011/04/09(土) 12 52 21.36 ID G+jtU5eZ0 [4/10] 「だあああああああああああわあったよ!じゃあベッドに行くぞ!」 「ぬぁっ!なっ!何よベッドって!キモイキモイキモイ!あんた、あたしと何するつもり!?」 両腕で自分を抱きしめるようにして、桐乃がお尻で後ずさる。 「ば、馬鹿!寝るだけだろ!一緒に寝るんだろ?人聞きの悪い事言うんじゃねぇ!」 「あ、そ、そうね。そうだったわ……」 「寒いんだから、もっとくっつきなさいよ……!」 そんなわけで、俺と桐乃は……言うのも小っ恥ずかしいのだが……抱き合うような形で俺のベッドの上で横になっていた。 正直さっきの泣き顔を見てからというもの、俺の目はどこかおかしくなっちまったんじゃないかと思う。 今までは憎たらしくしか写らなかった桐乃の表情や仕草が、彼氏に甘えている1人の女の子……のように見えてしまう。 「な、なんでそんな腰引いてるのよ……」 「ひっ引いてなんかいねぇよ!」 嘘です引いてます。 だって仕方ないだろう!可愛い女の子と1つのベッドの上で抱き合ったら、そういう気分になるのが……反応せずに居られないのが男の性ってものだ。 桐乃の良い香りが鼻腔をくすぐる度、俺は兄妹の一線を越えんとする欲望を抑えることで精一杯だ。鎮まれ、鎮まれ俺の血流!何か、何か別のことを考えるんだ……! 「あ、そ、そういえば……」 「なによ」 「小さい頃は、良くこうして一緒に寝てたなぁ!」 「あ……」 不意に桐乃が黙り込む。 数秒の間を置いて俺の胸におでこを預けると、消え入りそうな声で言う。 「……そうだね」 ……俺は、何か別の話題を探していただけだった。桐乃との、幼い頃の思い出なんか……残っては居なかった。 だけど、今俺に頭を預けている桐乃の胸中には、その頃の俺達が映っているのだろうか。 淡く、頼りなく揺れる俺の記憶の中に……その光景を求める事は出来るのだろうか。 「庭で……プールとか一緒に入ったよな」 桐乃が顔を上げる。 「あの頃は、こうやって2人、いつもくっついて回ってたな。一緒に寝て、一緒に遊んで……大好きだった」 思い出は、蘇る。 忘れたように見えたとしても、自分の中にある大事な想いに気付けば……大切なものを思い出せば。 「兄貴……?」 「なあ、俺達は、この数ヶ月の間に、大分近づいたと思わないか」 344 名前:【SS】5/5[sage] 投稿日:2011/04/09(土) 12 55 24.40 ID G+jtU5eZ0 [5/10] 桐乃は何も言わない。 いや、いつだって文句ばっかりの桐乃だから、黙って聞いていてくれる事が答えなんだ。 「本当は、ずっとお前に頼られたかったんだ。昔みたいに、誰に憚ることなくお前の事が大好きで、誰に憚ることなくお前に大好きって言って欲しかった」 「……シスコン」 桐乃の顔は俺の胸にうずめられていて、表情は伺えない。だけど、身体が温かくなっているのが感じられる。 「シスコンでも良い。気付いちまった以上は仕方ないんだ。俺はお前を……一生、離したくない」 言ってしまった後で、頭が真っ白になるような感覚に襲われる。 実の妹に、俺はとんでもない事を言っちまったんじゃないか!?桐乃にキモイと逃げられても文句が言えない……いや、それが正常な反応だ。 「い、や、あのな!だから、つまり……!」 言い訳しようにも言葉が見つからない。当たり前だ。本心を語ったんだから。 「ばっ……!」 桐乃が俺を突き飛ばし、大きく息を吸う。 「ばっかじゃないの!シスコンにも限度があるっての。あんたみたいな変態、ちょっとやそっと役に立ったくらいで調子に乗ってんじゃないわよ!」 あああ、そうだよな……。やっぱりそうなるよな。この傍若無人の妹様が、そうそう簡単に……。 「だ、だからっ……」 「へ?」 なぜか桐乃は、もう一度俺の胸に戻ってきて、呟くのだ。 「これから一生……人生相談……聞いてよね。離したくないなら、離れんじゃないわよ……?」 桐乃はちょっとだけ顔を上げると、上目遣いで俺を見る。 その顔は真っ赤で、少し涙目で……紛れもなく、俺が一生守っていこうと思える女の子の姿だった。 その何かを期待するようなその眼差しに、俺は堪らず答える。 「離れない。その代わりお前は、俺のもんだ」 終わり -------------
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729 名前:【SS】:2014/08/02(土) 16 27 35.72 ID AEgRSl/I0 『12巻原作補完あやせ視点』 ~クリスマス十二月二十五日~ わたしは新垣あやせ。ティーン誌の読者モデルなんかもやってる、今を時めく中学三年生。 さてさて、今日は冬休み直前最後の登校日。終業式も無事終わり、クラスメイト達が「よいお年を」という言葉を残して教室を去っていく。 受験が迫りつつあるが、お正月というイベントへの期体感が教室中に漂っている。 とても和やかな雰囲気... が!!わたしは心中穏やかでなかった。 「どうしてっ桐乃がいないのっ!?」 そう叫びながら机を強く叩いて勢いよく立ち上がる。 「ちょ。あやせ突然でっけぇ声出すなよナ?」 下の方から非難の声を挙げたのは来栖加奈子。 口が悪いのが玉に瑕だが、あと未成年なのにタバコを吸っていたこともあったが、それに立ち居振舞いが何かと下品だが、加奈子の欠点を並べ立てているうちに自信がなくなってきたが、わたしの良い友達の一人だと思っている…多分。 補足だが、その貧相な体形を活かして、とある少女向けアニメの公認コスプレイヤーなんかもやっている。 「にしてもよー。桐乃のヤツ、マジでバカじゃね?風邪ひいて学校休むとかwww確か去年も風邪で倒れてたしwwwww加奈子なんか休みなしだから皆勤賞貰えるんじゃネ?うへへへへ」 そうだね。加奈子は馬鹿だから風邪ひかないよね。 ニヤニヤしながら喜ぶ加奈子。悪ぶっているのかそうでないのかよく分からない。 「でも加奈子、遅刻ばっかりしてたよね?皆勤賞は無遅刻無欠席じゃないと貰えないよ?」 「うへぇ~…」 加奈子は机に倒れ掛かって心底残念がっている。 「それにしても桐乃、どうしちゃったのかな…」 先程から話題に出ている『桐乃』というのは、わたしの一番の親友でフルネームは高坂桐乃。 成績優秀で運動神経抜群、ファッションにも凄く気を使っていて何時も可愛い。それに真面目で努力家、みんなに優しい。 わたしはそんな桐乃を憧れと尊敬の眼差しで見つめている。愛していると言ってもいい。 しかし、桐乃にも人には言えない秘密がある。何を隠そう桐乃は妹もののエロゲーをこよなく愛する超絶ヘビーでディープなオタクなのであった。 加奈子は桐乃が休んでいるのは体調を崩しているからだと思い込んでいるようだが、そうではない。 わたしも最初は加奈子と同じように考え、先生に桐乃の容体などを聞いた。しかしその返答が予想外のものだった。 『風邪?なんのことだ?高坂からは何の連絡もないぞ』 要するに、サボり。休む何かしらの理由があるなら、真面目な桐乃はちゃんと学校に連絡するはずだ。何も言わずに学校を休むなんて、普段の桐乃じゃ有り得ない。 と言うことは、その有り得ない何かが桐乃の身に起きたに違いない。 心配になったわたしは、頭の中で考えを巡らしながら荷物を持ち、加奈子を放置して教室を出る。廊下の冷たい空気が、教室内にエアコンが効いていたことを思い出させる。 靴箱で靴を履き、校門まで歩く。校舎の外は風を遮るものがなくより寒い。校庭の桜の木もすっかり真冬の装いだ。 歩きながら考えたことだが、桐乃のことは桐乃に聞くのが手っ取り早い。校門の外に出て携帯を取り出す。電話帳から目的の名前を探しだし、コールす… 『お掛けになった電話は、電源が入っていないか、電波の届かない場所にあるため…』 コールされなかった。呆然として手に握り締められた携帯を見つめたまま立ち尽くした。 暫くして脳を再起動させる。やはり何か予期せぬことが発生しているらしいことを確信する。 あらゆる可能性を探っていると、頭の中に悪い想像が立ち籠め始めた。 まさか、事故……? でも、桐乃に限ってそんなこと…! 頭をブンブン振り回して嫌な想像を振り払う。 と、そこで1人の人物の顔を思い出す。その人物なら桐乃のことを知っているかもしれない。 再び電話帳を開き、名前を探す。その人物の名は、さっき電話した桐乃のすぐ1つ上。 そうして見つけ出した「高坂京介」という名前。 桐乃の実の兄で桐乃とも仲が良い。優しくてお節介でシスコンなお兄さんだ。 3週間ほど前にお兄さんに告白して振られてしまったのはここだけの話。 実はその日からお兄さんとは1度も言葉を交わしておらず、少し躊躇いながら通話ボタンをプッシュした。 『お掛けにな』 .................ブチッ。 危うく脳内出血で逝きかけた。肝心な時に役に立たないお兄さんだ。 暫くして脳をクールダウンさせる。 だが、こんな偶然があるのだろうか?兄妹揃って携帯(桐乃は最近スマートフォンに買い替えたが)の充電が切れているなんて。 桐乃の無断欠席には、恐らくお兄さんも関係しているに違いない。第一、桐乃の様子が可笑しな時に、お兄さんが関わっていなかったことはないのだ。関わっていなくても自ら関わりにいくのがお兄さんなのだ。 徐々にお兄さんへの疑惑が膨らんでゆく。 しかし桐乃ともお兄さんとも連絡がつかない。 どうすべきか悩んでいると、ふと、半年ほど前のことを思い出す。お兄さんは一度、わたしと連絡を取るためにお姉さんの携帯を借りたのだ。それなら今回はその逆の経路を辿れば良い。 三度電話帳を開く。そしてお姉さんの名前「田村麻奈美」を探す。 田村麻奈美先輩はお兄さんの幼馴染みで、わたしも仲良くさせてもらっている。その料理の腕や、決して人を不快にさせない懐の深さについてはわたしも見習わなければならない。 通話ボタンを押す。その瞬間、二度あることは三度あるのではないかと不安になる。しかしすぐに呼び出し音が鳴り始めて安心する。 prrrrr..... 少し待つと呼び出し音が途切れた。 「もしもし?あやせちゃん?おはよ~」 お姉さんのふわふわした声を聞いて波立っていた心が鎮まった。 「おはようございますお姉さん。お姉さんに頼みがあるんですが、お兄さんが近くにいるなら電話を代わってもらえませんか?」 「きょうちゃんに?きょうちゃんなら今日は学校お休みだよ~」 「え?」 「今朝電話があって、『今日は待ち合わせ場所に行けないから先に行っといてくれ~』って言われたの。遅刻するって意味なのかな?って思ったけど、結局学校には来なかったよ~。一体どうしちゃったのかな~?」 あまりの事態に頭が働かない。何も言えずにいると、お姉さんが言葉を続けた。 「ところであやせちゃんは、きょうちゃんにどんな用事があったの?」 「じ、実は桐乃のことなんですけど…」 「桐乃ちゃんのこと?そういえば何日か前に、『イブの夜は俺も桐乃も麻奈美ん家にお邪魔していることにさせてくれ!』ってきょうちゃんにお願いされたけど…?」 「えええぇぇえええぇ!?!?」 「驚きすぎだよあやせちゃん」 「もしかしてそのお願い、了承しちゃったんですかっ!?」 「うん。」 今更ながら思い出す。イブの日に遊ぼうと桐乃を誘ったのだが、あっさりと断られてしまったことを。 「どっ、どうしてですか!?!?桐乃がお兄さんを本気で愛しちゃってることお姉さんも勿論知ってますよね!?」 「きょうちゃんにお願いされると断れなくて。えへへ~」 そう。さっきお兄さんのことをシスコンだと紹介したが、対する桐乃はブラコンだ。これも彼女の知られざる一面なのだ。 「イブの夜に二人きりにするなんて………。お姉さんてお兄さんに甘いですよね」 「ふふ。確かにそうかもしれないね。でも安心してあやせちゃん。わたしがあの2人を"普通の兄妹"にしてみせるから………。」 お姉さんとの通話を終えて、あの時の2人の言葉の意味を考える。 『エロゲーよりすっごいことしてやるんだから!』 『ごめんな、俺、好きなやつがいるんだ。』 イブの日、桐乃はお兄さんを連れて家を出た。お兄さんも桐乃に頼まれ、帰宅時間を延長するためにご両親に嘘までついた。 そして年に1度の聖なる夜に、桐乃はお兄さんに自らの抑圧された想いを打ち明ける…。 桐乃の想いを知ったお兄さんは何と答えたのだろうか……? prrrrr..... 突然携帯の呼び出し音が鳴り響き、思考が中断する。お姉さんとの電話がまだ繋がっているのかと一瞬錯覚するが、そんな訳はなかった。 ディスプレイに表示されたのは、「高坂桐乃」の文字。 「…もしもし」 『もしもしあやせ?ごめんごめん。電車乗ってたから電源切ってたんだ』 電話口から親友の呑気な声が流れ出してくる。何故かその呑気さに腹が立ってくる。 「そんなことより、桐乃今大丈夫なの!?」 『うん?大丈夫だけど?』 「じゃあどうして学校に来なかったの?」 『あ、いやちょっと用事があって』 「何で学校に連絡しなかったの?」 『そ、そりゃあたしだって忘れることぐらい…』 「ねえ。今どこにいるの?誰といるの?」 『…。』 「お姉さんから聞いたんだけど、昨日、」 桐乃を取り囲む包囲網を更に狭めようとした、その時。 「おいあやせ。お前チョーおっかない顔してるぞ」 突然現れた声の方を振り向く。 いつから傍にいたのか分からないが、珍しく加奈子が怒った顔をしてこちらを睨んでくる。 「何で桐乃を苛めてんだよ」 「わたしが桐乃を?そんなこと…!」 「じゃあさっきから何してんだよ」 「それは!桐乃を心配して…」 「ならもうイイじゃんか。電話で何話してんのか詳しいことは加奈子ワカンネーけどよ、桐乃は元気なんだろ?風邪なんかひいてないんだろ?だったらそれで十分じゃネ」 そうだ。桐乃は病気だった訳でもなく、かといって想像し得る最悪の事態――事故に遭遇したわけでもなかった。 機嫌だって良さそうで、気分が落ち込んでいるような様子さえない。桐乃は元気なのだ。 「桐乃だって何か家庭のジジョーってヤツがあったんだよ。それにサ、人には誰にだって他人には言えない秘密の1つや2つ、あるんじゃねーの?加奈子だってコスプレのこと、クラスのヤツらにはあんまし知られたくねーし」 秘密の1つや2つ…。桐乃の秘密――オタク趣味。 桐乃と絶交しかけた時のことを思い出す。また、同じ過ちを繰り返すところだった。加奈子に目を醒めさせられた。 1つ、大きな深呼吸をする。無意識のうちに強張っていた顔の筋肉がそうすることで少し緩む。加奈子の言う通り、恐い顔をしていたのだろう。 もうわたしは大丈夫。そういう意味を込めて加奈子にウインクを送る。加奈子も笑い返してくれた。 「もしもし桐乃。ごめんなさい。わたし、また…」 『あやせは謝らなくて良いよ。だってあたしのことを心配して電話してくれたんでしょ?』 「でも…」 友達を心配することと、その心配を解消するために相手を問い詰めることは、全くの別物だ。 そもそも桐乃がお兄さんに告白したなんて、全てわたしの妄想でしかない。 『学校休むこと事前にあやせに伝えてなかったあたしが悪いんだって。あやせが心配しちゃうのも無理ない。それに、まだ……あやせには言えないんだ、今日のこと。それに昨日のこと。それは本当にゴメン』 「…。」 『でも、いつかきっと話すから。全部あやせに話すから。いつになるかは分からないけど、必ず。』 「うん…。分かった。それまで待ってる」 『…ありがとう。あやせ。』 しんみり空気を打ち破るため、わたしは努めて元気な声を出す。 「ところで桐乃!」 『な、なに?』 「お正月…一緒に元日に初詣行こうよ!」 『う~ん。その日は先約があって…一月二日なら』 「仕方ないなぁ~もう。じゃあ一月の二日。約束だよ?」 『うん!』 「それじゃ桐乃。よいお年を!」 『よいお年を!』 電話を切り、鞄に片付ける。無言のままの加奈子の方へ向き直る。 「加奈子、さっきはホントにありがと。もう少しでまた桐乃を傷つけるところだった。加奈子もたまには良いこと言うよね」 「だべ?だべ?うへへ」 「随分待たしちゃったね。そろそろ帰ろっか?」 ニッと笑う加奈子。わたしが歩き始めると、加奈子もヒョコヒョコと横を歩く。 「んなことよりよー。初詣、加奈子も連れて行ってくれるんだよナ?」 「もちろんだよ。加奈子」 わたしは本当に掛け替えの友達を持った。そのことを神様に感謝する。 陽が高く昇り、先程までの寒さも幾らか和らいでいた。 来年も楽しい一年になる。そんな予感がした。 追記だが、家に帰り着いた頃にお兄さんからも電話があった。 酷く緊張したような声色だったが、全て解決したとだけ伝えると、どこか拍子抜けしたようだった。 ≡ ≡ ≡ ≡ ≡ ≡ ≡ ≡ ~来る新年一月一日~ ここは近所のとある神社。境内には様々な出店が立ち並び、参拝客で混み合っていた。 ここにわたし新垣あやせは家族と初詣に来ていた。 本殿の前には30mほどの人の列があり、わたしたち家族もその最後尾に並ぶ。 財布の中から五円玉を探していると、人混みの中でも一際目立つライトブラウンの髪が視界の端に映りこむ。 声を掛けようと喉から言葉が出かかるが、寸前のところで呑み込んだ。 桐乃がお兄さんと歩いていたからだ。ご両親の姿は見えない。あちらはわたしの存在に気付いてないようだ。 そう知ったわたしは話し掛けずに様子を見ることにする。 2人は既に参拝を済ませたようで、お守りなどが売っている方へと歩いていく。 桐乃とお兄さんはそれぞれ高校受験と大学受験を控えているので合格祈願のお守りを買うのだろう。わたしは推薦で進学先が決まっているのでその点は心配ない。 2人は色取り取りのお守りを眺めた後、黄色いお守りを1つずつと、それに加えてお兄さんは白いお守りも買っていた。 売り場を離れると、お兄さんは桐乃に今さっき買ったばかりの白いお守りを差し出す。桐乃も予想外だったのだろう。驚いた顔をするが、すぐに相好を崩す。 それは今まで見たこともないような、最高の笑顔だった。 桐乃にあんな表情させちゃうなんて、妬けちゃうなぁ... 桐乃がお守りを受け取ると、お兄さんも照れくさそうにそっぽを向いて頭を掻いた。 2人が再び移動を始めると、わたしの並んでいた列も動き出す。慌てて間を詰めてもう一度2人を探す。 見つけた桐乃とお兄さんは、今度はおみくじを引いている。 桐乃は大喜びしているが、大吉だったのかな?お兄さんは微妙な顔をしている(お兄さんへの悪口ではない)。 一頻り喜んだ後、桐乃はおみくじに書いてある内容を熱心に読み始めた。 すると桐乃は途中でポッと頬を染め、同じところに何度も何度も目を通す。 そんな桐乃の様子にお兄さんも気付いたのか、桐乃の持つおみくじの方へ手を伸ばした。 それをいち早く察知した桐乃も素早く身を翻らせておみくじを守り、そのままの勢いで近くの木の傍まで駆け寄っていく。そしておみくじを大事そうにその木の枝に結び付けていた。 2人はその後、出店でベビーカステラを買って鳥居の外へ消えていった。 今見た桐乃とお兄さんの様子はとても仲睦まじい兄妹の様に見えた。事実2人は何だかんだ言いながらも仲が良く、今だって2人で初詣に来ていた。 しかし、長い間あの兄妹を見てきたわたしには、先程の2人が"仲睦まじい兄妹を演じている"ように感じたのだった。 ~翌日一月二日~ 翌日、わたしは約束通り、桐乃・加奈子と初詣に行くために待ち合わせ場所に向かっていた。 待ち合わせ場所を見通せる場所まで来ると、向こう側から桐乃が歩いて来るのが見えた。 お互いに相手の姿を認め、二人同時に駆け足になる。そして丁度待ち合わせ場所であるバス停で落ち合った。 「明けましておめでと、あやせ!今年一年よろしくね」 「桐乃。明けましておめでとう。こちらこそよろしくね!」 既に年賀状やメールで済ませていた挨拶だが、やはり直接面と向かって言うのは特別だ。 約束の時間までは15分ほどあったので、誰々ちゃんから来た年賀状がカワイイ~みたいな話をしながら加奈子を待つ。 因みに今日行く神社は、昨日の所とは別の、少し遠くにある大きな神社だ。 暫く話していると後ろから声が掛かる。 「うい~~~っす。桐乃あやせ、あけおめことよろ。……って何だよそれ!?」 待ち合わせ場所に来るなり、加奈子は何やら不満げに声を荒らげる。 「加奈子明けまして……何のこと???」 桐乃は何のことか分からず、頭の上にクエスチョンマークを浮かべている。 「それだよそれ!どうしてお揃いなんだよ!」 加奈子の指差す先にはわたしたちの持つハンドバッグ。桐乃のそれには2つのお守りがついていた。 実はわたしも昨日、桐乃とお兄さんを見送ったあと、桐乃がお兄さんに貰っていた白いお守りと同じものを買っていたのだ。 「あっホントだ!あやせもあの神社に行ったんだ?お揃いだね。へへへ」 「うん。家族で行ったんだ」 「そうなんだ。わたしも家族と…ね?」 嘘は言っていないが、お兄さんと2人きりであったことはボかす桐乃。 それに、普通家族で初詣に行くことを「先約」と表現するだろうか? 「お守りのことは分かったケドよー。オメーらそれじゃ"初"詣にならねーじゃんかヨ?」 とまだ不満を漏らす加奈子。 「細っかいなー。お正月中に神社にお参りするのは全部初詣ってことで良いの良いの」 「加奈子は昨日、家族で初詣とか行かなかったの?ほら…加奈子のお姉さんとか」 「姉貴は寒がりだからコタツから動こうとしねーんだもん」 そうこう言っているうちにバスが近付いてきた。 「あっそうだ。加奈子チョー良いこと思い付いちゃった。ニヒヒヒヒ」 「なになに?あたしにも教えてよ加奈子」 わたしたちの目の前にバスが停まる。 「これから行く神社で恋愛成就のお守り買うンだよ。桐乃も買っといた方がイイんじゃねーの?」 「あ…あたしは別に…良いかな?」 「あん?どーゆー意味だよ桐乃テメー」 バスの扉が開き、桐乃と加奈子が並んでバスに乗り込む。わたしも二人の後を追う。 「深い意味はないってば」 「目が泳いでんゾ?」 バスのステップを上っていく桐乃に合わせて、2つのお守りが楽しそうに揺れている。 1つは合格祈願の黄色いお守り。 そしてもう1つの白いお守りは、お兄さんが桐乃に贈った、一年間の無病息災を願う健康祈願のお守りだった。 ≡ ≡ ≡ ≡ ~三月中旬~ 卒業式を間近に控えたある日、わたし新垣あやせはいつもの児童公園に来ていた。もちろんお兄さんと会うためだ。 最近暖かい日が続いていたのだが、今日は真冬の寒さに戻っていた。 座っているベンチからも体温が奪われていく。 「あやせ~~!」 公園の入り口からお兄さんが小走りでやってくる。 わたしもベンチから立ち上がる。 「はあっ…はぁっ…はぁ…体がすっかり、はぁ…鈍っちまってる…」 お兄さんの吐く息が白く結露している。 「お兄さんお久し振りです。…大丈夫ですか?」 「は…ふぅ。大丈夫だ。待たしちまったな」 「待たされ過ぎたので風邪をひいたら責任取ってくださいね?」 「ハハッ。そりゃ済まねぇな。………確かに、あやせとこうして会話するのも久し振りだな」 電話をしたり、一方的に姿を見かけたりしたことはあったが、顔を合わせて会話をするのは去年の告白の日以来ということになる。 たった数ヵ月前のことだが、随分前のことのように感じる。あの時お兄さんの前で流した涙を思い出し、少し恥ずかしい。 お兄さんもあの時のことを考えていたのかは定かでないが、わたしが再び話し始めるまで黙っていた。 「ところでお兄さん、大学合格おめでとうございます」 「ありがとう。ぎりぎり滑り込みセーフだ」 冗談めかしてお兄さんは笑ったが、表情がすぐに真剣なものへと変わる。 「…そんなことより、今日は何の用だ?それを言う為だけに呼んだんじゃないだろう?」 「お兄さんは分かっているんじゃないですか?」 「さぁ…?何のことだか」 トボケるお兄さん。 「思い当たることがあるんじゃないですか?」 「……桐乃ことか」 「やっぱり分かってるじゃないですか。そう…、桐乃と、お兄さんのことです」 あの去年のクリスマスから、より注意深く桐乃を観察していたが、イブの夜を始まりに2人が付き合っていることは99%疑いようもない。 そのことについて決着をつけるため、今日お兄さんを呼び出したのだ。本当はもっと早くに呼び出したかったが、お兄さんの合格が分かるまでは邪魔できなかった。 「桐乃には手を出すな、と何度も言いましたよね」 「ああ。」 「どうしてこんなことになったんですか」 「ちょっと待ってくれ。俺が桐乃と付き合う訳ないだろ?」 お兄さんは飽くまでもシラを切り通すつもりのようだ。 「嘘は止めましょう、お兄さん。桐乃も加奈子もわたしも、何も言いませんが、みんな知っています。わたしと加奈子が振られて、桐乃がお兄さんと付き合っていることを」 わたしたちは親友だ。口に出さずとも分かるのだ。 「…どうしても、言わなくてはならないのか?」 「別に良いです」 「え、良いの!?」 「お2人が付き合うに至った経緯は……お兄さんの口じゃなくて桐乃の口から聞きたい…。桐乃と、約束しましたから。」 あの日の約束はまだ果たされていない。 「ということは、あやせは俺と桐乃とのこと、認めてくれるのか?」 「誰がそんなこと言いました?付き合い始めた経緯をお兄さんから無理矢理聞き出すことはしませんが、それと認めることとは別問題です。」 「…。」 「第一、黒猫さんのことはどうしたんですか。お兄さんは別れても尚、黒猫さんのことが好きだったんじゃないんですか。」 黒猫――五更瑠璃さんは桐乃のオタク友達で、お兄さんの元彼女。格好も喋り方も性格も一癖あるが、悪い人ではない。 「わたしも彼女と連絡を取り合うようになりました。彼女は桐乃の為に一度身を引いたらしいですけど、彼女の辛さを想像したことがあるんですか。」 「黒猫は分かってくれているはずだ。」 「黒猫さんだけじゃありません。いつも元気な加奈子だって、一時期落ち込んでて。」 「俺なんかより好い人を見付けられるさ。」 「それに、誰よりもお兄さんを良く知っていて、お兄さんのことが好きな人だっているんですよ。」 「もしそんな人がいたとしても、俺は桐乃を選ぶ。」 「このことをご両親に知られたら、お兄さんも桐乃も勘当されてしまうかもしれないんですよ。」 「覚悟はしてる。」 「兄妹で好き合っているなんて世間に知れたら、お兄さんだけでなく桐乃も傷つくことになるんですよ。お兄さん1人で、世間の冷たい目から桐乃を守れるんですか。お兄さんが桐乃と付き合うことで、桐乃をその危険に曝していることが分からないんですか。 本当に桐乃のことを愛しているなら、桐乃と付き合うべきではないんじゃないですか。そんなに妹のことが好きなら、とっとと駆け落ちでも何でもして下さいよ、このっ…変態。」 「あやせお前泣いて…」 「泣いてなんか、いません、よ…っ」 精一杯強がりを吐いたが、知らぬ間に頬を雫が伝っていた。 「認められるわけないじゃないですか!沢山の人を傷つけて…!おまけに社会的に抹殺されてしまうかもしれないようなリスクまで背負って…!赦せるわけ…っ、ないじゃないですか…っ!」 兄妹で恋愛なんて間違ってるに決まっている。桐乃の考えていることも、お兄さんの考えていることも、全く理解出来ない。 ギリリと奥歯を噛み締め、流れる涙を手で拭う。それでも涙は止まらない。 「でも…っ、あんな幸せそうな顔を見せられたら、もうわたし…っ、何も言えないじゃないですか……」 クリスマスからの桐乃の表情は、自分が幸せだということを雄弁に物語っていた。全てのリスクを承知した上で、あんなにも幸せそうにしているのだから、それ以上は何も言うべきことはなかった。 そのまま、涙が自然に流れるに身を任せる。またお兄さんの前で泣いてしまった。 お兄さんもわたしが泣き止むのを待ってくれていた。 「こほん。」 1つ咳払いをして話を再開する。 「桐乃の笑顔に免じて特別に赦してあげます。でもわたしの言ったことを忘れないで下さい。お兄さんが桐乃を笑顔にしている裏側で、何人もの女の子が泣いていることを。今でもお兄さんと桐乃は、危ない橋を渡っているということを。」 わたしは桐乃の敵にはなれない、最初からそう分かっていた。かと言って2人の関係を積極的に認めることも出来ない。 2人の世間での立場が危うくなることを承知していながら、それでも兄妹恋愛の道へ背中を押す黒猫さん。 自らが世間の代表者として、2人の前に立ち塞がろうとしているお姉さん。 二人の行動は真逆だが、どちらもとても残酷で、しかしその実は、真に桐乃とお兄さんを想ってのことなのだ。 本当に2人に対して甘いのは、お姉さんではなく、どちらにもなり切れないわたしの方だ。 「分かった。その言葉、胸に刻むよ」 ずっと溜まっていたモヤモヤを全て吐き出すと、急激に視界が広がる。公園の桜の木が、春の兆しを感じさせる。 「お兄さん、もう1つだけお話を聞いて下さい。お兄さん、"最後の"ご相談があります。」 「……何で最後なんだ?」 「桐乃もわたしも加奈子も、みんなバラバラの高校に進学します。だから…」 わたしは推薦で私立へ。桐乃と加奈子は偏差値が違い過ぎた。 それでもわたしたちは親友だ。今後もそれは変わらない。しかし今までのように何時も一緒という訳にはいかない。否応なしに疎遠になるだろう。 そうなれば自然とお兄さんと会うことも減る。場合によっては二度と会うこともないかもしれない。 「そんな寂しいこと言うなよ。俺達はもう、友達だろ?」 桐乃を介した関係だけではない、とお兄さんは言ってくれている。 友達だと言われたことと友達以上にはなれないこと、両方の意味で心に沁みる。 「いいえ。わたしも何時までもお兄さんに頼りきりではいられません」 みんな別々の道を進んでゆく。何時までも子供のままではいられない。自立しなくてはならない。 「でも、一人じゃどうしようもない時は、何時でも相談に乗るからな?」 「お兄さんってホントにお節介ですよね」 「俺が好きでやってるだけさ」 お兄さんは最後まで、誰にだって優しいのだ。 「そろそろ話を本題に戻しますね?」 最近の桐乃の様子について思い出す。 「最近の桐乃、時々物凄く泣きそうな、不安そうな顔をしてるんです。基本的には笑顔なんですけど、油断した時にほんの一瞬だけ、そんな表情を見せるんです」 「あやせもやっぱりそう感じるか?」 やはりお兄さんも同じことを感じていたようだ。 「でも、わたしにはどうしてあげることも出来ないんです。どうにか出来るのは、お兄さんだけでしょう?」 桐乃が世界で一番愛し、桐乃を世界で一番愛している、桐乃の変態彼氏に向かって語り掛ける。 「だから、桐乃のことは、お兄さんにお任せします。その代わり…」 桐乃とお兄さん、2人の行く末に思いを馳せる。 このまま茨の道を突き進むのか、それともどこかで終止符を打つのか。どちらにしても、2人はとても辛い思いをするだろう。 しかしそんなことは2人とも、付き合い始めたその時からとっくに分かっていたはずだ。 だからこそ、敢えてわたしはお兄さんに言い放つ。 「もし、桐乃を泣かせたりしたら、今度こそ絶対にお兄さんを赦しませんからね?」 お兄さんも負けじと言い返す。 「俺に任せろ。最後にゃあいつをとびっきりの笑顔にしてみせるからよ!」 寒空を見上げると、一筋の飛行機雲。 あの飛行機はどこに向かっているのだろうか。 わたし達は、そして桐乃とお兄さんは、どこに向かっているのだろうか。 風に流され消えてゆく飛行機雲を見ても、答えは1つも見付からない。 卒業の日まであと数日。 大きく膨らんだ桜の蕾が、本格的な春の到来を今か今かと待っている。 "別れ"の時は―――もうすぐそこだ。 完。 ----------
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39 名前:はじめてだから、やさしく(批判)してね。[sage] 投稿日:2011/01/06(木) 02 04 59 ID LVniaaTc0 [1/12] アニメ9話 BGM(京介フィルタ)カット、きりりんがる読み込み⇒日本語化&妄想patch当て後 あたしの名前は高坂桐乃。 学業優秀、スポーツ万能な上、容姿端麗。完璧なあたし。 でも、実は誰にも話せない「秘密」がある。 その「秘密」のせいで、最近落ち着かなくなってしょうがない。 その日は、「秘密」が届くのを兄貴に気が向かない振りをして待っていた。 「やっときた~~~」 「何それ?」 「エロゲー~~♪」 あたしの「秘密」・・・それは、「妹」もののエロゲーが大好きな事。 でも、この事は兄貴も知ってるし、他にも数人だけだけど知っている人がいる。 あたしは、何故かちょっと引いてる兄貴を残して、早速ゲームを開始した。 「妹」は二人でみやびちゃんとりんこちゃん。 あたし的には黒髪ロング、清楚で大人しいみやびちゃんが好み。 だって、「お兄ちゃん」に真っ直ぐに本心を伝えて甘えるなんて、現実だととても恥ずかしくてできないんだもん・・・。 そう、あたしが「妹」ゲーが好きな理由、それはもう一つの「秘密」。 実は兄貴の事が大好きで、ゲームの中の「妹」と自分を重ね合わせているって事。 でも、この「秘密」は簡単に知られるわけにはいかない。 だから、兄貴には「妹」が好きだからって言い訳してる。(「妹」の事がすっ・・・ご~く好きなのも本当だけど。) 40 名前:長くてごめんなさいなんて[sage] 投稿日:2011/01/06(木) 02 06 09 ID LVniaaTc0 [2/12] ゲームはまだ序盤。りんこちゃんと海水浴にいく場面だ。 『りんこ「喋んな。むかつく。ばかじゃん。」』 と、ここで選択肢。『A:「おまえ、いい加減にしろよ」B:「がまんだ、がまん・・・」』 りんこちゃんの理不尽な罵倒に耐えつつ(後のデレ期をもりあげるため・・・そのため・・・)、ふと、あたしは兄貴の部屋の方を見てしまう。 兄貴だったらどうするかな・・・B・・・かな・・・?兄貴、やさしいもんね。 『りんこ「これだけ言っても怒らないんだ。情けないやつ。」』 『りんこ「死ねばいいと思うよ。あんたなんて生きててもどうせしょうがないでしょ。」』 「・・・このクソゲーめぇぇぇっ!」 兄貴がこんなに優しくしてくれてるのに、何!その態度!? 「言ってくれんじゃん。どんなしつけ受けてきたわけ?あんた妹でしょう!?」 こんなに兄貴に優しくされたら、普通甘えるべきでしょう!?あたしだって 『りんこ「うっさい!他人のくせに、兄貴面しないでよ!」』 あたしだって・・・あたしも同じ・・・? あたしは前に兄貴にぶつけた暴言を思い出して、とてもいたたまれない気持ちになってしまう。 「あんた何様?いくらなんでも酷くない!?」 もう、誰に対して怒っているのか分からない。ゲーム?りんこ?シナリオライター?・・・ううん、きっと本当は自分に対して。 「あんたの攻略は後回しっ!」 また、いつもと同じ。自分の気持ちに正直に向き合わず逃げてしまった。 あたしの中では、兄貴を大好きな気持ちと、素直になれずつい暴力や暴言を振るってしまう気持ちが混ざり合ってる。 本当は、ごめんなさいって謝りたいのに、「大好き」って言いたいのに・・・。 少し落ち着いた所で、プレイを再開する。 りんこルートは、感情を抑えられなくなりそうなので、みやびちゃんルートから。 『みやび「ごめんねお兄ちゃん。りんこのことあんまり怒らないであげて。」』 みやびちゃんカワイーーーっ!やっぱ「妹」って、こう、素直で純真じゃないとねっ! 『みやび「きっと、りんこもね?本当は、お兄ちゃんができてうれしいはずだから・・・」』 「えぇっ?そうかなぁ・・・?」 さっきのりんこの態度を思い出し、あたしは少し不愉快な気分になってしまう。 『みやび「うん、りんこ、照れ屋さんだから・・・」』 「うぅん・・・アレはそういうレベルじゃないって・・・」 兄貴を罵倒しかしていなかったじゃない。あたしは兄貴にいつも感謝してるもん。・・・口には出せないけど・・・。 『みやび「あのね・・・お兄ちゃん。わたしはお兄ちゃんと会えて、うれしかったよ。」』 『みやび「きっとりんこだって同じだと思う。わかるんだ、わたしたちは、双子だから。」』 「え・・・?」 本当は、そうなのかな?りんこも、あたしと同じなのかな? そう、考え始めたとき、 『みやび「お兄ちゃん、大好き」』 キタ━━━━(゚∀゚)━━━━ !!!!! みやびちゃんマジ可愛いーーーーーー! マジ天使みやびみやびみやびぅううぁわぁああああ、あぁクンカクンカ!クンカクンカ! 兄貴のパンツをクンカクンカしたいお!クンカクンカ!あぁあ!! みやびちゃん、みやびちゃん大好き。兄貴大好き、大好き大好きーーーーーー。 本当に大好きすぎて、頭の中真っ白になって、ぼうっとする頭で考えたの。 「妹」に慕われるこの気持ちと、兄貴を想うこの気持ち。 こんなに嬉しくて、切なくて、胸が張り裂けそうで・・・ こんな二つの気持ちを同時に味わえるなんて、あたしは世界で一番のエロゲーマーかも、ふふ・・・。 少しして、ふと正気に返ると、何かとんでもなく恥ずかしい事をしていた気がする。 でも、思い返すとやっぱり好きな気持ちがあふれてきて、ニヤニヤが止まらない。 気をとりなおして、みやびちゃんを攻略していこう。 41 名前:思ってないんだからね![sage] 投稿日:2011/01/06(木) 02 07 03 ID LVniaaTc0 [3/12] 『りんこ「な、なんでアンタがここにいるわけ!?」』 「ぅ・・・それはこっちのセリフだってーの!」 攻略を再開したあたしに、いきなり襲い掛かるりんこ。 「みやびちゃんとデートの約束したのに、なんでアンタがきてるの!?」 『りんこ「うそ、アンタも?く、くっそぉ~、みやびのやつ、あたしをハメたな~っ」』 これまで多数のエロゲーをプレイしてきたあたしにはわかる。 これは、りんこルートに入る予兆だ・・・。 せっかくみやびちゃんを攻略しようとしてたのに。 攻略ノートを見直しても、どこで選択肢を間違えたかよく分からない。 とりあえず、進めてみると、 『りんこ「・・・ち、しょうがない。こうなったら今日はアンタでガマンしてあげる。」』 相変わらず可愛くない。 その後もりんこは兄貴を罵倒しつづている。ちょうむかつく。 でも、あたしはさっきのみやびちゃんの言葉も思い出していた。 もしかして、もしかすると・・・。 「こうなったら、あんたから攻略してやるっ!」 捨て台詞のように言い捨て、あたしは、あたしに、あたしの暴力的なところに似ている「りんこ」を攻略することにした。 ゲームを進めていくうちに、りんこの可愛い部分が見えてくる。 大好きってなかなか言い出せなくって、でも本当は兄貴のことが大好きだったり、すごい恥ずかしがり屋さんで、つい手や口が出てしまったり。 あたしだったらちゃんと気がついてあげられるけど、兄貴って鈍感すぎるからなぁ・・・ そう、悶々としながら進めていくと、「りんこりん」はだんだんと積極的になってきてくれる。 「やっとデレきたー!!!!!りんこりん可愛いよりんこりん!」 やっぱり、「兄貴」が気がついてあげれば、「妹」はもっと積極的になるよね! こんな可愛い妹をほおっておくなんて、やっぱりうちの兄貴は罪なやつだ。こんなに大好きなのに・・・ それはそうと、ついにりんこりんを愛でる時間がやってきた! やっぱり、直接触れ合うんだから、女の子同士でも体をきれいにしなくちゃね! 「ちょっと待ってて。あたしもシャワー浴びてくるから!」 りんこりんにこう言い残して、あたしは慌ててお風呂に向かう。 階段を下りた所で━━━━ 「うぅっ」 あやうく兄貴にぶつかりそうになってしまった。 「そんなに急いでどうしたよ?」 「なんだっていいでしょ」 せっかくなんだから、あたしを受け止めてに来て欲しいよ。そしたら倒れこんでいけたのに。 そんな妄想をしてしまったけど、この後は最悪だった。 まさか兄貴に、あたしのパンツを見られるなんて。 もう、恥ずかしくて死にそうで、つい、いつものように兄貴に平手打ちをしてしまった。 「死ねっ変態っ!」 口をついて出るのはこんな言葉ばかり。こんなんじゃ、兄貴に嫌われちゃう・・・ 「もうっ・・・もうっ・・・死ねっ・・・」 お風呂で自分をそう罵ってみても、全然気持ちも晴れなくて、どんどん不安がこみ上げてきた。 深呼吸をして、少し気分を落ち着かせる。 そうだ、りんこりんみたいに少しくらい暴力的でも、兄貴と結ばれる事はできるよね・・・。 「よぉ~~~し!」 なんかみなぎってきた! 43 名前:数多くのSS職人さん[sage] 投稿日:2011/01/06(木) 02 10 13 ID LVniaaTc0 [4/12] 部屋に帰るとりんこりんが待っていてくれた。ごめんね、ちょっと遅くなっちゃって。 さっそく、りんこりんと触れ合う事にする。 「ちょっ、りんこりん、それはエロすぎるってば~~。」 少し前までは、あたしはエロシーンをこんなものか、と冷めた目でみていた気がする。でも、今は違う。 「妹」が乱れるシーンをみてると、あたしも兄貴の前であんなになっちゃうのかな、と妄想が止まらない。 「やばいって、エロいって~~~。そんなとこまでっ!?いいのっ!?」 隣の部屋には兄貴がいる。 見えるわけは無いけれど、まるであたしのエロいところが見られているみたいで、妄想も、声も止められない。 その時だった、 ドンッ!ドンッ! 「うるせえぞっ!おいっ!言っとくけどまる聞こえだからなっ!」 うそっ!聞こえてたっ!?恥ずかしい。。。 「変態っ。妹の部屋の音盗み聞きとか、ありえないし!」 ううん。聞こえてても良いの。本当は盗み聞きくらいして欲しいの。 「盗み聞きじゃねえ、普通に聞こえてんだよ!」 「そんなのあたしの勝手でしょ!」 うん、だって本当に聞いて欲しかったんだもん。 「じゃあせめてもっと慎ましくやれや。」 え?慎ましくって・・・。急に音が大きくなって困る事って、そう、録音しかないよね! 「な・・・まさか録音!?録音したんじゃないでしょうね?」 うん、録音して、毎日でも聞いて欲しいの。あたしのエロボイス・・・ 「そんな発想がでてくるお前こそが真の変態だっ!エッチシーンでも全く意識しないーとか言ってたくせに、真っ赤なうそじゃねーか!」 「それとこれとは全然違うってーの!あたしは純粋にりんこりんのエロ可愛さを愛でてただけだし!」 違うの、今は違うの。嘘。兄貴の事・・・意識してる。なんで素直に言えないの! でも、こんなシーン、名作妹ゲーの大事なシーンでもあったよね。<み○いろ+妄想による加味 これから二人は心が通じ合って・・・ 「どこが違うんだ・・・」 「全然違うっ!」 私の言ってる事、全然違うっ!ほんとはもっと・・・ 44 名前:いつも2828させてもらってます[sage] 投稿日:2011/01/06(木) 02 11 04 ID LVniaaTc0 [5/12] 結局、兄貴との壁越しのやりとりはうやむやのまま終わってしまった。 せっかく、気持ちをちょっとでも伝えられるチャンスだったのに。 あらためて気を取り直す。 ゲームはもう終盤。りんこりんは兄貴と離れ離れになってしまう事になってしまった。 『りんこ「・・・ねぇ、あたしたち、もう会えないんだって・・・」』 『りんこ「・・・兄妹だから・・・・・・結ばれちゃいけないんだって。」』 『りんこ「どうして、こうなっちゃったんだろう・・・」』 どうして、こうなっちゃったんだろう・・・。 昔は、あたしの大切なお兄ちゃん。 少し前までは、あたしを無視するただの「あいつ」。 今は・・・大好きな、あたしの、大好きな兄貴。 なのに、あたしは、もう少しすると、兄貴を置いてアメリカに留学することにしている。 兄貴に留学の事を相談しようと何度も思った。 でも、留学に反対されても賛成されても、どちらの未来でも不安なの。 「選択肢、間違えちゃったかなぁ・・・」 ううん、そうじゃない。 兄貴が私のことを想ってくれて、本気で考えてくれた答えなら、あたしは兄貴の言うとおりにできるの。 でも、兄貴の気持ちがわからない。 兄貴は優しいから、あたしの思う答えを口にしてくれる気がする。 でも、それじゃダメなの。 兄貴から、兄貴の本当の気持ちを聞けない限り、あたしはあたしの道を行くしかない。 もう、ゲームの内容は殆ど頭に入ってこない。 『りんこ「じゃあね、兄貴。・・・ずっとずっと好きだったよ」』 「バカじゃん・・・」 このつぶやきは誰に対してなんだろう。 りんこりんを引き止められなかった「兄貴」? 別れる間際まで、「兄貴」に好きな事を伝えられなかったりんこりん? あたしの気持ちに気づいてくれない兄貴? それとも、自分自身? まるで、ゲームの内容が、あたしの未来を暗示しているみたいで、胸が苦しくなって、泣きたいのをただ我慢することしかできなかった。 45 名前:ありがとうござます。[sage] 投稿日:2011/01/06(木) 02 11 54 ID LVniaaTc0 [6/12] しばらくして、お母さんの声が聞こえた。 「桐乃ー。お風呂入っちゃいなさい。」 「はーい」 あたしは何事もなかったかのように、お風呂に向かう。 そこで、兄貴と、よりにもよって兄貴と遭遇した。 「おお、また風呂かあ?」 あたしはこの時どんな顔をしていただろう。 あんたの事が好きで、大好きで悩んでるのに、このっ、唐変木っ! つい、兄貴を蹴ってしまった。 「痛ってぇ・・いきなり何しやがる」 「キモ、馴れ馴れしくすんな!」 あたしの気持ちに気がついてよ・・・ また、売り言葉に買い言葉の応酬になってしまう。 「お前はいつもそうだよなぁ・・・」 「わ・・・わかったような口きくなっ・・・」 あたしが兄貴の事、大好きって気がついてくれないと嫌いになっちゃうんだから・・・ 「おい、桐乃・・・。おやすみ。」 あ・・・。 やっぱり、好き。大好き。超大好き! あたしは、これで、改めて自分の気持ちを固める事ができた。 陸上も、アニメも、エロゲも、モデルも、勉強も、あたしの好きな事は全部やめない。 でも、もっと大好きな事。大好きな人。 あたしの兄貴の事は、何があっても絶対にあきらめないって。 End. -------------
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933 名前:1/3[sage] 投稿日:2011/01/16(日) 00 00 44 ID /kDECuMY0 [1/4] 「ねぇ」 「ん? なんだ?」 「あんた、今週末か来週末、空いてる?」 「そうだな…今週末はちょっと無理だが、来週末なら空いてるぞ?」 「じゃ、その週末空けといて。か、買い物付き合ってもらうから」 「買い物? 秋葉か?」 「違う。渋谷だから、それなりのカッコしてよね」 「渋谷って…なんでまた? でかいもんでも買うのか?」 「違うっての。ほら、これ」 「これって…ああ、お前の載ってる雑誌か。これがどうしたんだ?」 「付箋が貼ってあるページ、読んで」 「ここか…? おぉ、お前のプロフィールが載ってるな。 なになに…『高坂桐乃 休日は大好きなお兄ちゃんと買い物して―』ってオィィ!?」 「きゃっ!? な、なによいきなり…び、びっくりするじゃない!」 「あっ… す、すまん、驚かせちまったか」 「女の子にいきなり怒鳴り付けるなんて最ッ低ぇー」 「すまん、悪かったよ。ついうっかり―って、それはそうと、何これ?」 「ハァ? 見ればわかるでしょ。あたしのプロフィールじゃん」 「そ、それはわかるけどな? このだっ…大好きなお兄ちゃんと云々ってのは一体…?」 「ああソレ? あたし、仕事じゃ妹キャラってことで通してんの」 「そ、そうなのか? でもよ、それにしたってこれは…」 「それは…お父さんのアイデアなの。 妹キャラで、かつお兄ちゃん大好きってことにすれば、変なヤツが寄って来辛いだろうって」 「な、なるほど…いや、考えてみれば確かに良いアイデアだ。 恋人と違って、兄妹は一生別れることはないからな」 「っ! …そ、そうでしょ? 虫除けならこれが最適だろうって」 「さすが親父、こういうのは鋭いな。 でもよ、それはわかったんだが、これと渋谷がどう関係してるんだ?」 「その…今度、読モのオフ生活を語るって感じの企画が予定されてて、 それでどこでなにしたなんてのを書くことになりそうなの。 だからあたしの場合、あんたと一緒に何かしてたってことにしないといけなくて… その…だ、ダメ?」 「…いいぜ」 「!! ほ…ホント? ほんとにホント?」 「ああ、本当だ。しかし桐乃、やっぱお前すげぇな」 「えっ…? な、なによいきなり」 「いやさ、プロだなって思ってよ。 俺なんか、手伝いもどきのバイトくらいしかやったことないからさ。 お前の仕事きっちりこなす姿勢、すげぇなって思うよ」 「べっ…別にたいしたことじゃないし。仕事なんだから当たり前でしょ」 「それが十分すげぇんだって。まあとにかく、そんなわけだからよ。 及ばずながら、手伝わせてもらうぜ」 「あ…う、うん…そうしてくれると、助かる…かな」 「よし、来週末だな。服は以前お前が選んでくれた―――」 「―――じゃ、じゃあ…今日はよろしくね…?」 「おう、こっちこそよろしく頼む」 「う、うん…じゃ、行こ…?」 「ああ、まずはどこから回るんだ?」 「えっとね―――」 「―――結構買ったな。まさか両手が塞がるとは思ってなかった」 「ご。ごめん… その、あたしもいくつか持つから…」 「いいって。確かにがさばりはするが、別に持てない量じゃない。 それにこれだけの量、お前一人じゃ無理だったろうから、二人で来て正解だったよ」 「うん…ご、ごめんね」 「どうしたんだよ。今日はやけにしおらしいな」 「べっ、別に? 何時も通りですケド?」 「そうか? ならいいけどな。さて、次はどこだ?」 「あともう一件、最後に―――」 934 名前:2/3[sage] 投稿日:2011/01/16(日) 00 01 31 ID /kDECuMY0 [2/4] 「―――ここ、例の取材の時の…」 「うん。イブの時の…」 「あん時きゃ金足んなくて…あのアクセ、今も欲しいのか?」 「あれはクリスマス限定だからもう無いし。そもそもあんた、今だってそんなお金無いでしょ」 「さて、どうだろうな」 「なっ…へ、へぇ? じゃあ、こ、これ買ってよ」 「このリング? これが欲しいのか?」 「そ、そう」 「適当にこの場で見繕った…ってわけじゃなく、本当に欲しかったんだな?」 「だからそうだっつってんでしょ。ま、甲斐性無しのあんたに買えるわけが―――」 「いいぜ、買ってやるよ」 「―――え? 今、何て…?」 「だから買ってやるって。それ、本当に欲しかったんだろ?」 「う、うん。そうだけど…え? な、なんで?」 「適当に選んだんじゃないってなら問題ないだろ。店員さーん」 「ちょ、ちょっとあんた!? 5万だよ? あの時のアクセより高いんだよ!?」 「大丈夫だ。同じ轍は踏まない。あ、これお願いします」 「ちょ…え? え?」 「ほらこれ、欲しかったんだろ?」 「う、うん…」 「なら良かった。さてと、これで最後でよかったか?」 「うん、そうだけど…」 「なら、そろそろ帰るとするか―――」 「―――ね、ねぇ…まだ、起きてる…?」 「おお、起きてるぞ。どうかしたか?」 「きょ、今日のことなんだけど…い、色々ありがと… でも、なんで…?」 「なんでって…何がだよ」 「その…付き合ってくれただけじゃなく、アクセまで買ってくれたり…」 「ああそれか… うーん、言わないとダメか?」 「だっ、ダメってことはないけど、教えて欲しい…かも…」 「あー… ちょっと恥ずかしいから、言わないつもりだったんだが… あのさ、例のイブの時、お前が最初に欲しがったアクセ、買ってやれなかったろ?」 「あ…うん…」 「あれ、実はすげぇ引っ掛かっててさ。後悔してたと言ってもいい。 だからよ、もし次に機会があればと、ずっと思ってたんだ」 「え…で、でもあんた、あの時は…」 「そうだな。とてもじゃないが、そんな雰囲気じゃなかったよな。 正直、面倒で仕方ねぇって思ってたしよ」 「っ…!」 「でもな、しばらくしてから思ったんだ。あんときゃもっと上手く振る舞えたんじゃねぇかって」 「え…」 「そりゃ取材だったかもしれねーし、轢かれろなんて無茶振りもされたさ。 でもよ、仮にもイブに一緒に出かけて、あれはなかったんじゃねぇかってな。 で、もし次に機会があればって思って、それに備えてたわけ」 「だから『同じ轍は踏まない』って…?」 「そういうことだ。アクセ買えるだけの持ち合わせがあったのも、それに備えて貯めてたからさ」 「そ、そうだったんだ…」 「ああ。だから今回お前の仕事を手伝えたのは、まさに渡りに船だったよ」 「っ!? あ…そ、それは…その…」 「ん? どうした?」 「なっ、なんでもないっ! なんでもないからっ!」 「そうか? ならいいが」 「う、うん…でも、なんで…?」 「なんでって…今説明したじゃねーか。聞いてなかったのかよ?」 「そ、そうじゃなくてっ! イブのことをどう思ってたのはわかったけど…なんで、そこまでしてくれんの…?」 935 名前:3/3[sage] 投稿日:2011/01/16(日) 00 02 18 ID /kDECuMY0 [3/4] 「そ、そりゃお前…そこまで言わなきゃダメか…?」 「だっ、ダメっ! こっ、ここまできたら、最後まで話しなさいよ…!」 「さ、察してくんねぇかな…わかるだろ…?」 「そ、そりゃ… でっ、でも違うかもしれないし! ちゃ、ちゃんとあんたの口から説明して!」 「ぐ…し、仕方ねぇな…い、一回しか言わないぞ?」 「う…うん…っ」 「妹が大事だから…じゃね?」 「っ!!!? あ、あ、あんたっ、あんた…っ!! なな、なに言って…!?」 「う、うるせえな… 理由なんて、じ、自分でも、そんくらいしか思い付かねぇよ…」 「い、いくらシスコンだからって…お、おおおかしいんじゃないの…!?」 「く…だ、だから言いたくなかったんだ…!」 「きっ、キモっ! 超キモッ! キモすぎ!」 「キモキモ言いまくりやがって…! お前は御堂筋か! どうせ俺はシスコン、妹道だよ!」 「もはや妹道すら超越したんじゃない? 妹皇って呼んであげようか?」 「なにその『この妹の兄貴は誰だあっ!』とか言いそうなの!?」 「それは至高の人でしょ。あーキモいキモい、ほんっとーにキモかった」 「クソッ…やっぱ言うんじゃなかった…!」 「でもさ妹皇」 「妹皇じゃねぇ! …なんだよ?」 「その…感謝は、してるから…ホントに」 「えっ…?」 「きょ、今日はホントに、あありがとう…プレゼントも…凄い嬉しかった…よ?」 「っ!? あ、ああ…そうか、なら、良かった…」 「う、うん…」 「………」 「………」 「じゃ、じゃあもう寝るね?」 「お、おう。お休み」 「お、お休み……… ―――ね、ねぇ?」 「ん? どうした?」 「あの…さ… まっ、またっ、またででっ…でぇー…」 「?? マタデー?」 「で、デパート! デパートに買い物行くから!」 「デパート? お前にしちゃ渋い選択だな。親父かお袋に贈り物でもするのか?」 「そっ、そうなの! うん、そういうことなの! だ、だからあんたも付き合いなさいよ!?」 「お…ああ、そういうことなら。日時とか決まってるのか?」 「ま、まだだから…仕事のこともあるし、これから調整するから… だからあんたも週末の予定、ち、逐一教えてよね?」 「了解した。できるだけ連携取れるようにしとく」 「う、うん…お、お願い………じゃ、じゃあ、お休み…」 「おう、お休み―――」 「―――デパート…デパートって何ソレ!? 何言ってんのあたしは…! 別にお父さんやお母さんに贈り物するのが嫌なわけじゃないけど、そうじゃないでしょ…っ! しかも、今日はせっかくその気になって付き合ってくれたのに、 仕事なんて嘘ついた後ろめたさで、素直に楽しめなかったし…! あたしのばかばかばか…っ!! ………はぁ。 でも、またあたしのこと、大事…って…えへへ、嬉しい…な……… 見てなさいよ…次はきっと言ってみせるから…『京介、デートしよう』って―――」 -------------
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423 名無しさん@お腹いっぱい。 2011/06/15(水) 01 09 47.69 ID THt4kK020 【SS】恋多き乙女・桐乃 「でさーあいつったらさー」 あたし―来栖加奈子はひさしぶりにダチの高坂桐乃、新垣あやせと会っていた。 夏休みっていっても加奈子はメルルのイベントで引っ張りだこだし、あやせは読モ、 桐乃は陸上と再開したらしい読モの仕事があるからけっこう急がしーんだよね。 ランちんなんてずっと連絡取れねーしよ。 だからさぁ、この三人で顔を合わすのも二週間ぶりくらいなんだよね。 そんなわけで加奈子も結構楽しみにしてたんだけどさぁ~ 「ほんと、マジキモくない~?」 なんで延々1時間も桐乃のお兄さんの話聞かされなきゃなんねーの? 初めの10分くらいは懐かしさから聞いてやってたけどよー さすがに今はもう飽きて、食べながら聞き流してるんだよね。 ったくよーこれ以上おなかぷよぷよになったら桐乃のせいだかんな。 「へぇ、そんなことがあったんだ」 あやせはずっと笑顔で聞いてるけどさーあれぜってー目が笑ってねーよな。 あやせが加奈子を『おしおき』する時もあんな目してんだけどさぁ・・・・・・桐乃のお兄さん平気かな。 「それでね~、あいつをからかってやろうと思って偽者の彼氏をでっち上げて家に連れてきたんだけどさ~」 まだ続くのかヨ。今来たワッフル食ったら次は何にすっかなー。 ぱくっ もぐもぐ・・・・・・ はぁ~やっぱここのワッフルはうめーなー。 ・・・・・・ん?桐乃の偽の彼氏? なぜかそのフレーズが加奈子の頭に残った。 桐乃の彼氏ってーとどっかで聞いたことあんだよな。 「初めは気にしてない態度とって部屋に引っ込んだの。 可愛い妹が彼氏連れてきてんのに一言もなしだなんてちょっとムカついたんだけどさ」 あぁそうだ!この間ブリジットと一緒の時に出会った奴じゃん! 「少ししたら帰ってきて、『俺より桐乃を大切にする奴じゃなきゃ認めねぇ』って偽彼氏に詰め寄ってんの。 本当にマジシスコンだよね~。 そもそもさ、あのバカ兄貴よりあたしを大切にできる奴なんているわけないじゃん?」 ・・・・・・前から思ってたんだけどよぉ~桐乃って超ブラコンじゃね?でもさぁ、加奈子にもバレバレってさぁ・・・・・・ バギリッ 桐乃のお兄さん、マジやばくね?あとあやせの顔、目以外も笑ってねーんだけど。 「いえ、でもお兄さんがいる限り桐乃に彼氏ができる心配がないと考えると・・・・・・」 なんか隣からブツブツ聞こえてくっけどジュソとかじゃねーよな? それにしてもさー確かに地味面すぎて桐乃にはあわねーって思ってたけどさ、もしかしてあいつって・・・・・・ 「なぁ桐乃ぉその偽彼氏ってさぁ~もしかしてあの時一緒にいた地味面のヤツかよぉ~」 「え?」 「やっぱなー。加奈子、桐乃とあの地味面は彼氏じゃねーって思ってたんだよね」 「ふ、ふ~ん。確かにあいつは彼氏じゃないけどさ、どうしてそう思ったの?」 「どうしてっていわれても困るけどよ」 なんていうかイワカンってのがあったんだよね。 ブリジットみたいなお子様にはわかんなかったみてーだけどよ、ケイケンホウフな加奈子にはイチモクリョウゼンだってーの。 だってさ、桐乃と地味面の距離感て 「なんかさ、二人の温度差ってゆーやつ?あれがさ、加奈子と加奈子に寄ってくる男たちと一緒なんだよね」 「ねぇ加奈子。それってどういう意味?」 あれ?なんであやせがそんな顔でこっち見てんの? 「えっとー、加奈子に言い寄ってくる男たちってさー加奈子の事好きなんだけどさ、加奈子としては遊んであげてるだけなわけよ。 たしかに面白かったりカワイイって思ったりもすっけどさー、恋愛とは別って感じ?」 「ふ、ふ~ん、加奈子にはそう見えたんだ・・・・・・」 「それによー桐乃はあいつのこと好きだって言ったけどよ、あいつは桐乃のこと好きって言わなかったじゃん? 桐乃も地味面もホンネを言ってたみたいだし、仲は良かったけどヨ、別に好き合ってるわけじゃねーんだなって」 「・・・・・・」 あれ?でもそれだと桐乃の片思いっつーことになんね? 「へぇ、桐乃そんな事言ったんだ」 あやせってばさっきからマジ怖いんだけど。 「えっと、ほら、確かにあいつにも良いところあるし? あたしを気にかけてくれるところあるからさ、そういうところが好きかなーって。 ほんと、そんだけだから!」 ん?あやせって偽彼氏のこと知ってんの? 「それでお兄・・・偽彼氏の方はどんな事言ってたの?」 「えっとぁ~桐乃が頑張り屋だとかぁ、桐乃のおかげで楽しい事が増えたとか言ってたっけなー」 地味面にはキョーミなかったしあんま覚えてねーや。 「・・・・・・そう思ってるんだ」 なに?もしかしてあやせもあの地味面のこと気にしてんの? 桐乃もあやせもあんな地味面のどこがいーんだろーな。 ・・・・・・ 「なぁ桐乃~」 「なに?」 「その偽彼氏って恋愛対象じゃねーんだよな?」 「・・・・・・うん、そうだけど?」 「じゃあさ、加奈子に紹介してくんね?」 「「はぁ!?」」 「だってさー、桐乃がイヤなヤツに偽者の彼氏役なんか頼むはずないじゃん? それにさーそいつって優しくて頼りになんだろ? ならさ、結構いいヤツっぽいじゃん」 「「駄目、絶対駄目!」」 おっ、身を乗り出してくんなんて、二人そろって地味面に結構入れ込んでね? 「あいつバカだし、鈍感だし」 「変態だし、いい加減な事ばかり言うし」 「「絶対に加奈子に合わないって!」」 地味面クン、てめーかなりひどい事言われてるぜ? けどよーここまで言われると逆に気になってこねー? 「そっかぁ?加奈子だってバカだし不器用だけどよ、二人と違って淑女【レディ】だからそれくらい受け止めてあげられるぜ? それによー人を好きになるってーのはさー、ダメなところよりもイイところを見てやるべきじゃねーの?」 「そうかもしれないけどさ、でもあいつは―」チャラララー 桐乃にメール?この着信音って一年位前から聞くようになったよな。 桐乃はちっと舌打ちするとケータイを取り出してメールを確認する。 「ったく、あのエロ猫、それくらい自分で判断しろっての」 桐乃は不機嫌そうにつぶやくと返信を送る。 桐乃のこんな顔見るようになったのも一年位前からだよな。 それにしても桐乃のケータイって今時・・・・・・ん? ケータイに張ってあるアレって・・・・・・ 「ごめんね、話し遮っちゃって。 でね、あいつはさ加奈子が思っているような―」 「あぁ~やっぱいーや」 「え?」 「別に紹介してくれなくってもいい~って言ってんのぉ」 「でもさっきまで」 「だって桐乃さぁ~あの地味面のことぉ~結構気にしてんだろぉ~? 桐乃とあやせの反応が面白かったからぁ紹介しろっていったけどさぁ~、 別にダチの大切なヤツをとるほど加奈子落ちぶれちゃいねぇーし」 「べ、べつにあいつのことなんて!」 「ひひ、じゃあさぁ~そのケータイの裏のプリクラは何なのかなぁ~?」 桐乃はあっと声を出すとケータイを隠す。 ひひっもう遅いってーの。 「その男ってさぁあの時の偽彼氏っしょ? そんな目立つところに張っちゃうくらい好きなんだからさぁ、加奈子に紹介できるわけねぇ~よなぁ~?」 「えっと、これは、そのね、あいつと張り合って貼っちゃっただけで、別に他意はないっていうか・・・・・・」 うっわぁー桐乃顔赤くしてやがんの。かっわい~♪ 「桐乃?」 うわぁー桐乃顔青くしてやがんの。ゴシュウショウさまー。 そもそも桐乃は好きなヤツに偽彼氏役を頼んだっての自体どーよ? もしかして地味面をお兄さんに彼氏として紹介したら反対されちまって、仕方なく偽彼氏ってことにしたんじゃねーの? ブラコンなのはいーけどよー、ちゃんと必要な時には好きなヤツを選んであげなきゃダメだぜ? ちゃんとキモチを伝えておかないと、男はすぐ違う女んとこ行っちまうんだからさ。 「桐乃が偽彼氏が好きなのはわかったけどよー」 「だからあんなやつ好きじゃないって!」 「じゃあ他のヤツ、そのピアスくれたやつとはうまくやってんのかヨ?」 「え?ピアス?」 「たしか正月ぐれーからずっとつけてっけどよぉ~それ大切なヤツから貰ったやつだろぉ?」 そのハートのピアス、趣味はいいけどさ、桐乃がつけるには安っぽいんだよね。 何時も見られることを意識してる読モ様が、そんなアクセをつけてるなんて怪しいと思ってたんだよねー。 「緊張したときに触ったりとかぁ、いつもキレーに手入れしていたりとかぁ、バレバレだっつぅ~の。 それでさぁ、そいつってどんなヤツなんよ?」 「・・・・・・地味だし、甲斐性なしだし、なに考えてるかわかんないし、あたしの事嫌ってるみたいだけどさ」 ピアスを撫でながら桐乃がほほえむ。 「あたしにもできない事をやっちゃうような、すごいやつ」 「・・・・・・ふ~ん。なぁ、あやせぇーそいつの事どー思う?」 「許せない」 「なんでだヨ!」 なんで今の感想からそんな結論になんだよ。わけわかんねぇっつーの。 「その男ってさぁ~、恋愛対象じゃねーんだよなぁ?」 「・・・・・・うん、そうだけど?」 「じゃあさぁ、加奈子に紹介してくんね?」 「「駄目、絶対駄目!」」 まぁそう言うと思ったけどヨ。 あとまたあやせもそいつの事知ってんのな。加奈子の知らない奴って事はモデル関係かよ? 「あいつ3万の指輪も買えないし、ヘタレだし」 「会うたびセクハラしてくるし、嘘ばかり言うし」 「「絶対に加奈子に合わないって!」」 ・・・・・・なんかさぁ加奈子の知らないところですごいことになってね? こいつらのシュラバも気になっけど、加奈子そこまでムシンケーじゃねーし、聞かねー方が良さそうだよな。 というかあやせと桐乃がミョーな視線で見つめ合ってっけど、この視線の間に入れるほどの命知らずっていんのかよ? ん~じゃあ他に良さそうな男っていやー 「じゃあヨ、桐乃のお兄さんでいいや」 「・・・・・・はぁ?」 「見た目は覚えてねーほど地味だし?加奈子の趣味からはずれっけどよぉ、 桐乃の話聞いてるとさぁ、恋人のことすっごい大事にしそうなんだよねぇ。 色々口ウルサそーだけどさぁ、それってちゃんとこっちのこと見てくれてるっとことじゃん? 加奈子は恋人にはちゃんと『あたし』を見てほしいしぃ、ジュージュンなヤツじゃなくてぇ、対等なヤツがいいーんだよねぇ」 「あいつは絶対に駄目!」 「お兄さんは絶対に駄目!」 「あいつバカだし、鈍感だし、貧乏だし、ヘタレだし、あたしにあんまかまってくんないし」 「変態だし、いい加減な事ばかり言うし、会うたびセクハラしてくるし、嘘ばかり言うし、桐乃ばっかりかまうし」 「「絶対に加奈子に合わないって!」」 なんかさっきの二人を合わせたくれーボロクソ言ってっけどよー、最後の方にホンネが出てね? 「ふ~ん、桐乃もあやせも桐乃のお兄さんのこと大好きなんだぁ」 にやにやと笑いながら言ってやる。 ・・・・・・あやせにすごい顔でにらまれたけど気にしない。 「と、とにかく!あいつは駄目なの! わかった!?」 ひひ、ほんと、桐乃ってわかりやすいでやんの。 けどよ、ちょっと気になったんだけどヨ、 「桐乃ってばよぉ、今の三人の中でさぁ、ダレが一番好きなんよ?」 「はぁ!?」 「話を聞ぃてっとよぉ~、桐乃どいつもこいつも好きみてぇじゃん? ならよぉ、そん中でダレがどれだけ好きなんよ? それともぉ~三人ともアソビなワケぇ?」 やっぱりさ、ユウセンジュンイって大事だって思うわけよ。 自分の中で一番を決めておかないと、結局みんな傷つくことだってあるしさ。 加奈子、そんなの好きじゃねーし。 「え、えっと・・・・・・三人の中から選べって、そんなことできるわけないじゃん・・・・・・」 桐乃のことだからお兄さんが一番かと思ったけどよ、別にそういうわけじゃねーんだな。 「もしかしてぇミツマタってやつぅ? 加奈子ぉ桐乃の書いた小説読んだけどぉ桐乃はいろんなヤツと恋愛したいわけぇ?」 桐乃の書いた小説は読んだけどよ、あんまり加奈子の好みじゃなかったんだよね。 話の中でリノは結構いろんなヤツにカラダ許してるしさ。 リノが相手のことが大好きなのもわかるし? そういう恋愛があるのもわかるんだけどよ、 加奈子としては最初から最後まで、一人のことが大好きな話が好きなんだよね。 「あ、あれはただの創作だもん。 それにモデルだって一人のヤツだしさ」 「あ~!やっぱ一番に好きなヤツいんじゃんよぉ~。 話からするとぉ、ピアスのヤツ?」 桐乃が小説書いてたのってクリスマスくらいだったよな。 話の中にもピアス買ってくれたヤツがいたし、そいつがモデルじゃね? 「それ、私も気になるな。 桐乃、その人のことどれくらい好きなの?」 あやせが笑いながら桐乃につめよる。 「え、えっとぉ~」 あやせが怖い顔してっけどよ、そのおかげで怯えた桐乃からホンネが聞けそうじゃん。 「そ、そんなの、言えるわけないジャン・・・・・・ あたしにとってあいつがどれだけ大切かなんてわかんないし・・・・・・」 「ふ~ん。別に大切なんかじゃないって言わねぇ~んだぁ?」 桐乃の顔が赤く染まる。 ・・・・・・あれ?桐乃の今の返事、ちょっと違くね? ⇒A.『好きか』って質問に『大切』って答えたよな? B.まぁ、いいか。それよりも告白とかしねぇの? 「なぁ桐乃ぉ、今『好き』じゃなくて『大切』って答えたけどよぉ、そいつの事オトコとして見てねぇの?」 「え?」 「そいつがどいつだかわかんねーけどさ、そいつって恋愛対象外なワケ? そいつとはどんな関係なんよ?」 「え、えっと~」 桐乃がチラチラとあやせの方を見る。 あやせはニコニコ笑っている。 もちろん、目は笑ってねーけどな! 「ねぇ桐乃」 「な、なに?」 おお、桐乃キョドってやがんの。 みんながあやせは怖くないって言うから、もしかしてあやせが怖いのって加奈子だけなのかもって不安だったけどよ、 やっぱりあやせってば誰が見てもメチャ怖いじゃん。 「私も桐乃がお兄・・・その人のことどう見てるのか知りたいな。 教えてくれるよね?」 ・・・このあやせ、いつもの百倍くらい怖くね? あやせは隠し事されるの嫌いだけどよ、これは度が過ぎてね? あと、今明らかに『お兄さん』って言いかけたけどよ、さすがにそれはねぇべ。 ・・・無いよな? 「う、うん。でも絶対に誰にも内緒だよ?」 「わかってるって。絶対に誰にも話さないから。 ねぇ、加奈子?」 「当たり前だっての」 これでも加奈子のお口のチャックは硬いんだからな。 だからよぉ、その目で加奈子を見るのはやめてくんね? 「えっと、あいつとはずっと昔からの付き合いなんだ」 ふ~ん。幼なじみってやつかな? 「ずっと昔は仲良しでずっと付いて回ってたんだけど、大きくなってからはまったく話さなくなって、 また話すようになったのはつい最近なんだ」 「そうだったんだ。そういえば前はあんまり話を聞かなかったもんね」 「うん。お互いに無視しあってたからね。 で、あやせと喧嘩するちょっと前にさ、あいつに助けられたの。 あいつ、お父さんに思いっきり殴られても、あたしの大切なものを守ってくれたの」 桐乃のお父さんて警察官だったよな。 やっぱりそいつって根性のあるすげぇヤツじゃん。 「それで思ったの。 もしかしてあたしってそんなに嫌われてないのかも。 ちゃんと大事にされてるのかもなって」 桐乃が嬉しそうにほほえむ。 「その後もあやせとの喧嘩を仲裁してくれたり、 小説の取材に付き合ってくれたりしてさ。 嫌がっててもちゃんとあたしを助けてくれるの。 あたしの事嫌いなのは間違いないのにさ」 ああ、あの時のあやせは怖かったなぁ。 桐乃がいる時もいない時もずっと今みたいな顔で怒ってんの。 あと二三日あのままだったら、加奈子ダチやめてたね。 そういえば、桐乃とあやせが加奈子の前で猫かぶるのを止めたのもこの辺りからだったかな。 で、ひとつ聞きたい事あるんだけどヨ、 「さっきあんまり嫌われてないって言ってたじゃん。 どうして嫌われてるっと思うわけよ」 桐乃がさびしそうに笑う。 「わかるよ。だってあたし、あいつの事嫌いだし」 「はい?」 「あいつがあたしを嫌ってるから、あたしもあいつが嫌いなの。 お互いに嫌いあってるんだもん。それくらいわかるよ」 「本当に、嫌いなの?」 あやせが不思議そうにたずねる。 「うん。大っ嫌い。 でもね、あたしの事が嫌いなのにさ、あたしがダメになりそうな時にすぐに来てくれてさ、 『お前が心配なんだ。お前がいないと寂しくて死んじまうかもしれない』って言ってくれたんだぁ」 桐乃が幸せそうに笑う。 なぁ桐乃、それさぁ、ぜってぇノロケ話だって。 ってか、その話どっかで聞いた事ある気がするんだよな。 「でもそんな事があってもあいつの態度は変わんないの。 あいつがあたしの事どう思ってるのか益々わかんなくなってさ、 あたしもあいつにどう見て欲しいのかわかんなくなるの」 「あたしとあいつが恋仲になるなんてありえないし、 あいつがあたしの中で一番てわけじゃないんだけど、 あいつにはあたしをもっと見ていて欲しいの」 桐乃の言葉が止まらない。 目の前に加奈子たちがいるっていう事も絶対に忘れてんな。 「あたしが一番でいて欲しいの。 あたしを一番大切にして欲しいの。 あたしの一番そばにいて欲しいの。 ずっとあたしを見ていて欲しいの」 「あたしだけを見ていて欲しいとか、 あたしだけを好きでいて欲しいとか、 ずっとあいつといたいとか、 恋人になりたいとか、 そういうんじゃないんだけどさ」 「あいつのことなんか大っ嫌いだけど、もう絶対に別れたくない。 そんな関係かな」 桐乃が笑う。 加奈子にはうまく表現できねーけどさ、ジアイっていうか寂しげっていうか、そんな表情だった。 「「・・・・・・」」 加奈子もあやせも言う言葉が見つからない。 「あ・・・・・・」 加奈子たちの視線に気がついたのか、 我に返った桐乃が今言ったセリフに気がついて顔を赤く染める。 今のは忘れてって顔してるけどよ、絶対に忘れてやらないかんな♪ しばらくたって桐乃の顔の赤みが消えるころ、桐乃が口を開いた。 「恋人になりたいってワケじゃないし、そいつが一番だってワケじゃないんだけどさ、 それでもそいつの一番でいたいって思うなんて、やっぱり駄目かな?」 「そんなの駄目に決まって―」 「ん~別にいいんじゃね?」 「「え?」」 桐乃とあやせが加奈子を見る。 「桐乃がさぁ、そいつと仲良くなったのって去年くらいからだろ?」 「うん、そうだけど。何でわかったの?」 あやせとのケンカのちょっと前くらいって聞いたのもあるけどよ、それ以上にあのころから桐乃が変わったんだよね。 「去年くらいからさ、桐乃すっごい輝いてるじゃん。 読モの人気がすっごい上がったし、小説とか書き始めるしよ、陸上でも記録出したんだろ? 加奈子も気になるヤツがいるからわかるけどさ、そいつに良い所見せたいってのはすっごい力になるんだよね」 初めてのイベントの時、さすがの加奈子も緊張したけど、あいつに加奈子のすっごいところを見せようと思ったらすっごいがんばれた。 あの糞マネ今は何やってんのかな。 「加奈子たちってまだチューガクセーじゃん。 ガキなんだからさ、恋愛とか愛情とかまだよくわかんねーし。 でもさ、加奈子たちは女の子で、そういうのが力になるんならさ、そういうの大事にするのは間違ってねーって」 「―そうだね。 あいつが応援してくれるともっと早く走れる。 あいつが見てくれるともっと綺麗になれる。 あいつがそばにいてくれるなら、あたしを一番に見てくれるなら、あたしは何だってできる。 うん。悪くないね。そういうの」 桐乃は愛おしそうにピアスをなでる。 ―なぁ桐乃、気付いてねーだろうけどよ、桐乃の今の顔さ、まさに『恋する乙女』だぜ? 「まったく、加奈子ったらそんな事言ったらまた桐乃のお兄さん好きが・・・」 加奈子の隣であやせがコーヒーを飲みながらブゼンとした顔でブツブツつぶやいてる。 さっきの怖い顔じゃねーけどよ、やっぱりそのつぶやいてんのってジュソとかじゃねーよな? 「ねぇ加奈子、加奈子がさっき言ってた気になるヤツって誰?」 しばらくして桐乃がそんな事を聞いてきた。 「ん~?加奈子さぁ、前にコスプレのイベントに出たじゃん? あの時のマネージャーが気になってんだよね」 ブッ! なんかとなりであやせがムセてんだけどよぉ、気をつけねーともっとブスになっちまうぜぇ? 「加奈子、あの人のこと好きだったの?」 「ん?別に好きじゃねぇけどよ、面白かったから遊んでやってもいいかなって」 「ねぇ加奈子、前も言ったけどあの人って私にセクハラして解雇されたんだよ? なんで会いたがるの?」 そのリユーだけどよ、なんかナットクいかないんだよね。 「あの糞マネとはほとんど会ってねーけどさ、あいつそんなことするヤツには見えないんだよね」 第一あやせにセクハラなんかしたら今頃山に埋められてるっつーの。 ・・・まさか、埋められてねーよな? 「イキチガイがあったんならさ、ちゃんと誤解をといてやらねーとカワイソーだろ?」 あと埋められてるならせめて掘り返してやらねーとカワイソーだろ? 「加奈子勘違いしてるよ。 あの人は会うたびにセクハラしてくるし、 好きでもない人にプロポーズするような最低な人なんだから」 「あの糞マネはそんなヤツじゃねーし。 あやせが勘違いしてるだけじゃねーの?」 「そんなことないよ~。 加奈子は子供だから相手にされてないだけじゃないのかな?」 あやせが『いつもの』笑顔で言う。 ・・・ふ~ん。そんなこと言うならぁ、加奈子ぉお口のチャックが軽くなっちゃうなぁ♪ 「ところで加奈子ぉ~あやせに聞きたい事があったんだけどぉ~」 「な~に?」 「最後にランちんに会った時聞いたんだけどぉ~、近くの公園でぇ~、男の人と密会してるんだってぇ? 加奈子ぉ~そのお兄さんの事知りたいなぁ」 ピキリ ん?あやせの額に青筋たってね? 「えぇ~!あやせ付き合ってる人いたんだ~」 桐乃が目を好奇心に輝かせてあやせにつめよる。 ひひっ。どーよ。大好きな桐乃に彼氏について詰め寄られる気分はよー。 「あはは・・・ そんな人じゃないって~ ただの知り合いだよ~」 「ほんと~? あやせってさ、浮ついた話あんまり聞かないじゃん。 それなのに二人きりで会うなんて、結構気に入ってるんじゃないの?」 「だから~ただの知り合いだって。 優しいけど地味だしね」 「ね~教えてよ~。 あ、そうだ!今度会わせてよ!」 「え?」 「その人がうちの兄貴みたいに変なヤツじゃないか、見て確かめてあげる!」 プツン ん?いまどこかで何かが切れた音しなかった? 「ねえ加奈子」 「なによ」 「ちょっと、お話があるんだ」 あやせが加奈子の肩をつかむ。 ぐぎりりりり 痛ぇ!超痛ぇって! 「ねぇ桐乃」 「な、なに?」 「私、加奈子とお話があるからお手洗いに行って来るね」 「い、いってらっしゃい」 桐乃が乾いた笑みを浮かべる。 なぁ桐乃!助けろって!加奈子を見捨てるつもりかヨ! なんで売られていく子牛を見るような目で加奈子を見てるんだヨ! ツインテールを引っ張られながらトイレに連れて行かれる中、加奈子は思った。 ―加奈子ってば、どこで選択肢間違えたんよ? -DEAD END?- -------------
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320 名前:【SS】[sage] 投稿日:2011/05/30(月) 00 13 44.19 ID W1TuvYR/0 男と歩く桐乃の姿がそこにはあった。 腕をらからめ親しげに語り合ってどう見ても恋人にしか見えない。 以前偽彼氏をつれてきた一件で、桐乃には恋人がいないという思い込みをしていたのかもしれないな。 いくら兄にベッタリだからといって、そういった存在がいないとは限らない。 もしかしたら本人も無自覚なまま友達として付き合ってるのかもしれない。 まだ彼氏なんかでは全然ない、と。 だが傍目からみてても明らかに男にはその気がある。『絶対』だ。 情けないと思うかもしれないが尾行する。 いや、せざるを得ない。家族として当然だからな。 あの男が『良からぬこと』をしようもんなら怒鳴り込んで家に連れ戻してやる。 「ほら。はやくきて、お兄ちゃん!」 な、なんだと。 桐乃にお兄ちゃんなんて、よばせてるのかあのひょうろくだまめ! 桐乃も桐乃だ!本物の兄がそれを聞いたらどう思うか考えたか? はらわた煮えくりかえるに決まってる! だいたいなんだあの男のチャラチャラした格好は! 見たところ高校生か大学生だろうが、あれは絶対女遊びをするタイプだ。 桐乃はああ見えて優しいから、ああいう情けない男に引かれるのかもしれん。 ぐぬぬ、いかん、いかんぞ、誠に遺憾だ! 思わず余計な想像をしてしまった。 そうこうするうちに、二人は小綺麗なビルに入っていく。 ――いかがわしい所じゃないだろうな 素知らぬ顔で通り過ぎた後、タイミングを見計らってビルの入り口に舞い戻る。 ビルの一階は多目的イベントホールで、以前桐乃がこういった所で撮影していたというのを聞いたことがあった。 容認できないのはそこかしこに純白の衣装が、飾ってあることである。 ――これではまるで、結婚式場だ。 会場は貸切状態のようだったが、警備もなくすんなり奥に進むことが出来た。 別の階がオフィスになっているからだろう。無用心だが、おかげで、『手間は省けた』。 頭が真っ白になりながら会場に入る。部屋の数が多い。 タイミングをずらした為にどの部屋に入ったかわからずにいると、あのひょうろくだまがトイレからでてきた。 「おい、貴様! 桐乃はどこだ」 「お、親父ィ?」 「貴様に親父呼ばわりされる覚えは……き、京介?お前京介なのか?」 「な、なんでこんなところに」 「それは俺のセリフだ。お前まさか」 「違う違う、なにを考えてるか考えたくもねーが、親父が心配するようなことは断じて無い!」 「お前がかんがえた内容に言及するつもりはないが、なんだその格好は」 そんなチャラチャラした格好では桐乃の彼氏には相応しくないぞ。 だいたい息子には桐乃のような衣服選びのセンスがないのだ。 もっと大人の格好をしろ。だらしが無い。 「き、桐乃のみたてだよ。髪型も切らない範囲で整えてもらった」 き、桐乃が選んだのか、どうりでよく見るとセンスがある。 「その、なんだ、桐乃のキャラ作りのトバッチリだよ。」 「あいつ雑誌モデルやってるときは、お兄ちゃん好きで通してたろ?」 キャラ作りか。 お前は、本気でそんなことを考えてるのか。 年頃の女の子が嫌いな相手を好きなんて言うわけがなかろう。 逆はよくあるが。 京介の説明によると、ある服を着て、その感想を兄である京介にインタビューするらしい。 なんだその悪趣味な企画は。 この場で着替えると言ったら一つしかあるまい。 「なんでもよ、兄妹愛がテーマの映画とタイアップしてる企画らしくてよ」 「妹のウェディングドレス姿をみた家族の反応を写真つきで公開するらしいぜ。桐乃は候補の一人ってわけだ」 「それは家が焼けて無くなった人間に今悲しいですか?って聞くようなものだ、馬鹿馬鹿しい」 「半分は同意だが、家族としては嬉しい気持も持たなきゃいけないんじゃないか? 親父よ」 お前に、お前にだけは言われたくはないがその通りだ。 だが桐乃はまだ中学生だぞ、せめて30くらいまでは家にいて欲しいとおもってなにが悪い! 「あ、着替えがおわりましたのでお兄様は……えっとどなたですか?」 田村さんのお嬢さんに少しにている女性、会場側か映画側かはわからないが今回の企画の高坂家担当なのだろう。 「俺の……桐乃の父です」 「父の大介です。すまないな勘違いをしてしまったようで、俺は帰る」 「・・・・・・まあ、まて、親父。あんたも見て帰れ、担当の人。いいですよね?」 「え、ええ、まあ」 部屋につれて行かれる最中、あちこちに純白の衣装が飾ってある。 これを桐乃が着るのか。今は髪を染めてはいるがどちらかといえば桐乃は和装が似合うハズだ。 「お、お父さん?」 天女かと思った。 直後に睨みつけられなければな。 親になんて目をするんだこいつは。そういえば趣味を咎めたときに、桐乃に灰皿で撲殺されそうになったことがあるがあれと同じ顔をしている。 正直あれは堪えた・・・・・・ そんなに兄と一緒にいるのを邪魔されたのが嫌か? そんなに邪険にする必要があるか? 顔を見れば優しい顔で桐乃は兄を見つめていた。 ほれ、京介お前が褒めてやれ、俺は褒めるのは苦手だし、どうやらお邪魔なようだからな。 ・・・・・・ 横にいる京介をみると見惚れて口を半開きにしている。 なさけない!しっかりしろ。平手で『軽く』背中を叩く! 「いてえ?!」 軽く叩いただけだぞ、この軟弱者め。 「感想、いってやれ」 「ぁうぁあ、ああ、すまん見惚れていた、すっげえ綺麗だよ、マジで天使かと思った」 「え、ぁ、……ありがとね、お兄ちゃん」 そこまで真っ赤になるか。 まったく、嬉しそうにしおって。昔からおまえは変わらない。 その顔を正面衝突からみることができるのはいつもこの馬鹿息子だけだ。 「あーえーと」 チラチラこっちを見おって、お前まで『のけもの』にするのか、お前が見ろと言ったのに。 「タバコ吸ってくる、ゆっくり語り合え」 部屋から出る瞬間。桐乃が『ありがとう』といいたげな顔をしていたが。知ったことか勝手にしろ。 喫煙所に向かう最中、担当者といっていたあの女性が何かを手にもっめ追いかけてきた。 「あ、あのこれ、映画のパンフレットの見本品です、良かったらどうぞ」 喫煙所でパンフレットを見ると今回の企画と映画の関連性がわかってきた。 病弱な妹をもつが故に大変な苦労をしてきた兄。 妹が嫁にでるその日に自分の気持ちに気がついて、それでも歯をくいしばって妹を祝福する。 そんな映画だった。 結末までは書かれていないが、まあ、『そういうこと』なのだろう。 うちのバカ息子がやりたくても出来ない行動だ。 しばらくすると息子が喫煙所に現れた。なんだその顔は、しけた面をしおって。 「時間かかったな」 「あのあと一緒に写真とったり会談したり、色々あったからな、今は桐乃だけの写真撮影だそうだ」 「終わってないなら傍にいてやれ」 「気が散るだろ?それに俺らにも個別のインタビューがあるそうだ」 「そうか」 「それよりどうだった、親父は」 「綺麗だったな」 「同感だ、親父」 声を聞いて確信するが、馬鹿息子も同じ腹持ちでいるのだろう。 「綺麗だが、みたくなかった!」 「まるで同感だ親父!」 親子そろって泣きそう顔だった。 京介お前はまだいいだろう。俺は今日なんの心の準備もできずにあの姿を観たんだぞ。 「だけど、親父にはみせないとな、って思ってよ、今回写真もらえるらしいし、いい記念になるだろ」 そんなものは本番でみればいいんだ、予行演習なぞしなくていい。 「もしかしたらこれが……いやなんでもねぇ」 程なくして担当の田村さん(仮称)がインタビューをしにきた。 俺は会議室にでも移動するのかと思ったが、ここでいいらしい。 もっとも映画のテーマは兄妹愛らしいので、ここでも俺はお邪魔だろう。 「どうでした? 妹さんのウェディングドレス姿」 「普段は派手な格好をしている妹なもので、少しビックリしました」 「お父さんはどうでしたか?」 やはり聞いてくるのか! が内容については割愛させてもらおう。 正直俺はこういったもものは元来苦手であり、今回も口ごもるばかりでたいしたことはいえなかった。 そんな父をみてむしろ冷静になったのか、息子は当たり障りない意見ではあるものの上手くやりとりをしている。 「京介さんはこの物語の主人公をどう思いますか?」 会話の流れでわかったが 京介はあらかじめストーリーがかかれた小説のようなものを渡されていたらしい。 「すごいと思います。兄として共感できる部分も多いです」 「ふふっそうなんですか?」 「俺…自分は似たような事があった時、同じように祝うことができるか、自信がありません」 「まだ先の話。そういう気持ちもあります」 「でもいつかはご両親、お兄さんの元を離れていってしまいますね、もちろん離別ではありませんが」 さっきからしつこいぞこの女。 お前は産まれたての仔犬を可愛がる飼い主に、でもいつか死にますね。と話しかけるつもりか? 命がけで橋をつくる男に、いつかは壊れますね。と呼びかけるのか? 「でしょうね、妹の結婚式に出て、心から祝ってあげて、それが兄として、多分正しいんでしょう」 「その……京介さんは、もし妹さんが、お兄さんの為に結婚しようとしていたら、どうおもいます?」 ん?そういうストーリーなんだろうか。 「もらった資料では、判断は難しいです。そもそもそれに気がつけるかどうか」 どうやら資料とやらも肝心の部分は伏せられているらしい。 「とにかく、願うのは妹の幸せです」 「もし。桐…妹が自分の為に望まない結婚をするというなら、全力で阻止します。それは間違いありません」 同感だ息子よ。 「でも、そうじゃなくて二人が愛し合っていたなら・・・・・」 「相手が妹を絶対幸せに出来るなら、妹がそいつを本気で好きなら……」 まるで映画の主人公そのもののように歯をくいしばりながら息子は言葉を選んでいるようだった。 そうして、なにか吹っ切れたような顔でこう言い放った。 「それなら妹は……やっぱり手放したくありませんね、ハハッ。俺、手遅れなぐらいシスコンなもんで」 親の前でなんだ。この馬鹿息子が。 俺は馬鹿息子の頭にぽんと手をのせた。もう10年はこんなことはしていない。 お前は桐乃とちがって褒めて伸びるタイプではないからな。つまらない思いをさせたかもしれない。 「い、いきなりなんだよ どうした親父。」 「どうもせん」 「すまない、ウチの息子にはこの映画は早すぎなのかもしれませんな、なかなか妹離れができない、甘ったれなもんで、望むような回答は出来ないだろう。この辺で勘弁してやってほしい」 「いえ、とっても素敵な御兄妹ですね。聞いていたのよりずっと」 どういうことだ 「私、こういうものです」 手渡された名刺には作品パンフレットにある脚本、監督と同じ名前があった。 「あんたが書いた話なのか!」 京介、言葉を選べ。 しかし、まさかこんなに若い女性が監督脚本とはな。 「私、衣装を提供してくれている会社の娘さんと個人的交流がありまして」 「その人から桐乃さんと、そのお兄さんの話、よく聞いていました」 「私はひとりっ子なので、今回の話を書く時、一度お話を聞きたいと、そう思っていたんです」 息子と目があった。どうやら、息子も話が飲み込めてないようだが。 所謂作品のインタビューとは少し毛色が違うようだ。どちらかといえば、取材か。 「え、じゃあさっきの写真とかは」 「お伝えしたことに基本嘘はありませんよ、 「ただ、桐乃さんは広告塔の唯一無二の候補で、私の映画にも多大な影響がある、それだけです」 そんなことがあって半年後 桐乃はあの衣装をもう一度着ることにらなったらしい。テレビ用の撮影だそうだ。 今夜その広告がテレビに初めて流れる。そう嬉しそうにいっていた。 「ねえお母さん、こいつったらねまーた私に見惚れちゃってさ、撮影中に無意味に泣き出すし、大変だったんだから」 「おまえ、そういうこと言うのやめろよな!」 「まったく……そろそろCM入りそうじゃない? 録画はしてあるけど」 「一分のロングバージョンなんだよね? 桐乃の初CMかー、もうご近所様にも連絡しちゃった」 「ほとんどノーギャラだけどね。本当はモデルやめてる最中だからさ、こういうのどうかと思ったんだけど」 試写会には桐乃だけ呼ばれたらしいな、その時のコメントも流れるかもらしれないとのことだた。 「なあ、マジでどんな話なんだよ」 「知りたいなら公開されてから見に行こうよ」 「ほら、はじまるわよ」 ――真実の愛がここに―― 貧乏ながらも幸せそうなら兄妹、いかにもそんな風な光景が次々と映る。 京介は早くも涙目だ。 優しそうな兄。健気な妹。美しい風景。そして豪雨。 雨の中途方にくれる妹。 親の贔屓目だろうが子供達に少し似ている。 「感動しました!」 「涙がとまりません!」 そして、桐乃がウェディングドレス姿で画面に映る。 「私もこの物語を応援します」 ――この冬、一組の兄妹の愛に涙する―― 「それなら妹は……やっぱり手放したくありませんね、ハハッ。俺、手遅れなぐらいシスコンなもんで」 ――11月23日公開―― ブフゥーーー! 家族4人ともが一斉に吹き出した。無理もない! 我が家のバカ息子がヘラヘラしなからシスコン宣言してる所を全国に流されたのだ! しかも元読者モデル、高坂桐乃さんのお兄さん とテロップまで入っていた。 「えぇー聞いてない!、なにあれ京介いつあんな事言ったの!」 「最初の撮影の時だよ、隠し撮りしやがって! 訴えたら勝てるぞ、絶対!」 そして、携帯が一斉になる 普段連絡なんてとったことのない同僚からもメールが来ていた。 子供達はそれどころではない。食事もそこそこに対応に追われて自室にもどっていった。 「なあ母さん」 「なんですか?」 「たまには映画、観にいくか」 佳乃はブッと吹き出したあと 「たまにはねぇ、私の記憶によると、あなたから映画にさそってくれたのは二回目なんですけど」 「そうか、そうだったか。ああ、近所は辞めよう。あいつらと鉢合わせはしたくないからな」 あのバカ息子の顔が使われたってことはだ。そうそう暗い話ではあるまい。 ――END―― -------------
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790 名前:【SS】:2013/07/20(土) 22 59 00.76 ID Hgn+MBoE0 【SS】エピローグのエピローグはプロローグ 「で、さっきのはなに?」 アキバでのオフ会も終わり自宅に戻ってきたのだが、俺は帰宅そうそう桐乃の部屋で正座させられていた。 桐乃はというと、俺を見下ろすようにベッドに座り足を組んでいる。 ―――つかおまえ人生相談とか言ってなかったっけ? 相談相手を正座させるってどういうこと? ……と思ったが、こいつの人生相談はいつもこんな感じだったな。 今更ツッコんでも仕方ないので、俺は話を前に進めることに。 「さっきのは……と言うと?」 「はあ!? なにとぼけてんの? あんたさっきあたしに…………した……じゃん……」 「あ? なんだって? よく聞こえねーよ」 「……あんた絶対分かって言ってるでしょ!…………約束したのに…………」 「いいじゃねーか、好きなんだから」 桐乃の顔がピクッと動く。一瞬嬉しそうに見えたのだが、何故かすぐに不満そうな顔に戻る。 「約束の事はちょっと置いとくケド……そういえばあんたさ、あたしにまだ言ってないことなくない?」 「ん? 別に隠し事とかねーぞ? エロ本もすでにおまえ公認だしな……」 「エロ本を認めた覚えないんですケド! てゆーかそういうことじゃなくて、あんたがあたしに言わなきゃいけないこと!」 ……言わなきゃいけないことねぇ……。つか相変わらず一々遠回しだよなこいつ。言いたいことがあるならはっきり言やいいのに。 「……う~む、そんな言い方じゃ分かんねーよ。もっと具体的に頼む」 「なんで分かんないの?!」 「分かるか!」 最近桐乃の言葉の裏が読めるようになってきた俺でも流石に情報が少なすぎる。 「……しかたない。あんたさ……あたしに……プ、プロポーズしたじゃん?」 「……ああ、した」 「その前に言わなきゃいけないことあるでしょ?」 「…………告白……的なことか?」 「そ、そう!」 「だから言ったじゃねーか。す…好きだって」 「好きっていってもいろいろあるし、どういう好きか分かんないじゃん!」 「恋愛的な意味でって言ったろ?」 「だ~か~ら!恋愛的な意味で好きって別の言い方あるでしょ!」 「…………あ~、アレね」 「うん。アレ」 あ~、気付いちまったか……。できれば言いたくなかったアノ台詞。 いや、決してそう思っていないわけではないのだが、直接本人の前で言うことがこんなにも恥ずかしいとは知らなかった。 ……待てよ、たしかあの時――― 『俺は桐乃を愛しているから!』 「そういえば美咲さんと会った時に言ったような気が……」 「はぁ?! あんなのノーカンに決まってるでしょ! 彼氏のふりで、嘘……だったワケだし……」 言った事自体は覚えてたのね。 ……まあ確かに、勢いと調子に乗ってたところはあったかもしんねーけど……………………。 ん? たしかあの時も――― 『俺は妹を愛しちゃってる変態なんだよ!』 「黒猫と沙織が車で来たあの時に俺の台詞にあったよな……?」 「はあ?!ばっかじゃないの?! アレあたしに言った台詞じゃないでしょ!! おまけに録音されたヤツをスピーカー越しとかありえないし!!」 あ、これも覚えてたのね。 しかし…………あんな恥ずかしい思いしたのにノーカンとかありえないし!! 「……しゃーねーな。あ~……一度しか言わねーからな。よく聞いとけよ」 「……うん」 「俺、高坂京介は、高坂桐乃を……あ…あ…愛しています。世界中の誰よりも」 ……ヤベー、超恥ずかしー。なんつーこと言ってんだ俺。顔から火が出そうだぜ。 「……もっかい」 …………人の話聞いとんのか?こいつは……。一度しか言わねえって言ってるだろうがよ。 てか、そんな顔して俺を見るんじゃない! 顔真っ赤だぞおまえ! あ、俺も赤いか?! なにうっとりしてやがる! 可愛いなぁ…………くそう! 「あ…愛してるよ桐乃」 「もっかい」 「桐乃、愛してる」 「もっかい」 「いい加減にしろよ! 何度言わせれば気が済むんだ?! ……俺だって恥ずかしいんだ……」 「ん~、まいっか。こんなもんで許してあげる」 おいおい、そんな台詞、そんな顔して言ったところで可愛いだけだぞ? それでも確認したくなってしまうのは俺の悪い癖で、 「…………満足したか?」 「…………ウザ」 ……どうやらお気に召したようだ。が、しかし。 「そういうおまえはどうなんだよ?」 俺は桐乃の気持ちを桐乃の口から聞いていない。“普通の兄妹”に戻った今でも、俺のことを好いていてくれてるとは思う。 でもやっぱり言葉で直接聞きたいと思うわけで…………。 すると桐乃はベッドから下りて俺の前でちょこんと正座した。 「聞きたい?」 そう問うと桐乃は、ずいっと顔を俺の顔に近付けた。 桐乃の行動に心臓はバクバクだがここは冷静に、 「……ああ」 「一度しか言わないから、ちゃんと聞いてよね」 「ああ」 「……じゃあ、目……つむって」 こ、これは! マジでまじで?! よっしゃあああぁぁぁあああ!! さあ来い! 桐乃! お兄ちゃんはおまえの方からちゅーしてもらえるのを待ってたんだぞ。いつでも準備OKだ!! あふれ出そうになる期待を押さえ込み俺はギュッと目を閉じる。 しかし桐乃から発っせられた言葉は無情で――― 「あははっ! あんたなに期待しちゃってんの? キモ~~~www」 …………やっぱそうかよ。……あ~俺ってバカだよな~、毎回毎回。期待がデカかった分ガッカリ感が半端ねえ……。 うなだれる俺に桐乃はトドメを刺すべく、 「あんたのことなんか―――」 ―――ちゅ。 「……………………愛してるに決まってんでしょ」 「……………………」 「……………………なんか言ってよ……」 不意打ちのキスと告白に頭が真っ白になっていた。 可愛いとか、愛おしいとかを通り越して俺はもう死んでしまうんではないかというくらい嬉しかった。 そして、当初予定してしていた展開とは違っていたが、今決まった俺の心の内を桐乃に吐露する。 「桐乃」 「…………なに?」 「俺ともう一度結婚してくれないか?」 桐乃はしばし逡巡していたが、やがて口を開く。 「…………だめ。だって約束……したじゃん」 「それなんだが……おまえがなんでも言うこと聞いてくれるってヤツでその約束をなかった事にして欲しい」 「……………………」 桐乃は黙って聞いていた。 さらに俺は続ける。 「そして……俺と結婚して欲しい」 「……………………」 「……………………そして俺と……………………別れてくれ」 「……………………」 本当は今日俺はあの『A判定のご褒美』で桐乃とよりを戻す予定だったのだが、さっきのキスと告白で俺は別の感情が芽生えはじめた。 桐乃はまだ15歳だ。才能という言葉では片付けられない努力で得た未来がある。 しかし責任感の強いこいつはきっと、俺がああいう形で桐乃を選んだことで、 “普通の兄妹”に戻ったとは言っても、俺に気を使い、縛られて生きて行くだろう。 それを無くすにはまずあの『約束』を解除する必要がある。 その上でもう一度結ばれ、そして俺達の関係をリセットしなければ桐乃の幸せな未来は有り得ない。 …………本当に自分勝手だな、俺。どこにも行くなとか言って桐乃の海外行きを止めて、既に未来を一つ壊してるのにな。 「今更酷い事を言ってると思う。でも……これが今の俺の本心だ」 「……………………」 桐乃は俯いていて表情は見えないが、きっと怒りで震えてることだろう。 「殴るなり蹴るなり好きにしてくれ。それで気が済むとは思えないが」 俺は無意識に衝撃に備え目を閉じる。 次の瞬間、俺の頬に伝わって来たのは温かく、柔らかなおそらく桐乃の頬の感触だった。 「……………………」 俺は予想外の展開に声を失っていたが、桐乃は俺の首に両腕を巻き付け、頬を寄せたまま耳元で囁いた。 「…………ありがとね、京介」 「…………桐……乃?」 「どうせあんたのことだから、あたしの幸せが―――とか考えてたんでしょ?」 「……いや、それは―――」 「ううん、大丈夫。分かってるから」 そして桐乃は俺の首から腕を解き、再び俺の前で正座をした。 「さっきのあんたの『お願い』に答えるね。まず『約束をなかった事に』だけど、これは認めてあげる。 でも、そのあとの『結婚して欲しい』と『別れてくれ』は認めてあげない」 「なんでだよ? なんでもって言ったじゃねーか。」 「あたしは『一個だけ』って言ったの。」 『あたしが、一個だけ、言うこと聞いてあげる』 「…………あっ!」 「思い出した? あんたエッチなお願いするって言ってたから『ぱふぱふしてくれ~』とかだったらどうしよ……って思ってた」 「……えっ、してくれんの?」 「するかバカ!! 変態!! てゆーか今そんな話してないでしょ!!」 そ、そうだった……。あぶねーあぶねー。思わず『お願い』の内容を変更しそうだったぜ……。ふむ……『ぱふぱふ』おそるべし……。 「わ、悪かった……。ぱふぱふの件はまたの機会にしてもらうとして―――」 「…………しないかんね」 「ゴホン……話を戻そう。……じゃあ俺とおまえの関係はどうなるんだ? 『約束』の直前まで戻るとしたら、俺がおまえにプロポーズしたあとなんだが……」 「それなんだけどさ…………。えっと……………………」 桐乃が言い淀み、表情が曇りはじめる。しかしそれは力強く、なにか固く決心したような表情に変わっていく。 ―――そして 「人生相談……あるんだケド……」 聞き慣れたフレーズ……。だけど桐乃の様子がいつもと違う。俺は黙って頷いた。 「あの『約束』がなかった事になったケド、あれは京介がプロポーズしてくれたから、 期間限定の恋人になるって『約束』したワケじゃん?」 「……ああ」 「だから逆にあのプロポーズがなかったら『約束』もしてない事になるよね?」 「…………そうだな」 「つまり『約束』をなかった事にするなら、京介のプロポーズもなかった事にして欲しいんだよね…………」 「なっ…………!」 ヤバい……声が出ちまった…………。 この提案は桐乃のためにはむしろいい提案じゃないか……。 それでも…………! 俺の気持ちは本物だった。いや、今でもそう、思ってる。 それをなかった事になんて…………できるはずが、ない。 「あたし…さ……、いろいろズルかったと思う。自分の気持ちをごまかして……自分に嘘ついて……それでも諦められなくて……。 たくさんの人に迷惑かけた……。だけど……みんなは……あたしと対等に勝負してくれた。 一番迷惑かけた京介は……いつもあたしを応援してくれて……励ましてくれて……護ってくれた……。 そして……あたしを……好きだって言ってくれた……。結婚してくれって言ってくれた……。 約束の日までの三ヶ月、すごく楽しかった。すごく嬉しかった。すごく……すっごく……幸せだった……。 でも……寂しかった…………。終わりがあるんだ……って思うと……悲しかった……。 それでも……言えなかった。約束をなかった事にしたいって。 ずっと一緒にいたいって……言えなかった。結局……京介に全部言わせて…………。 あたしのために、別れてくれ……とまで……言わせ、て…………。ホント最っ低……だよね…………。 でも……それを聞いて分かったの…………」 『拒絶されるって分かってても! 受け容れられないかもって不安でも! 振られたら超傷つくって分かってても! 想いってのは、伝えなくちゃなんねえんだよ!』 「あたしは自分で言わなくちゃいけなかった……。自分から伝えなくちゃいけなかった……。 あたしは京介と一緒だから幸せなの! 京介じゃなきゃダメなの! あたしは京介が好き! 大々々好き!! 大々々々だーーーい好きっ!!!!」 「あたしと結婚してください」 俺は桐乃のプロポーズの返事をする前に、桐乃を抱きしめていた。 なぜなら俺はかつてないほど、みっともないほど号泣していたからな。 やっぱお兄ちゃんとしては妹に泣き顔は見せたくないわけよ。 …………今更、とか言うなよ? 俺達は涙が収まるまでしばらく抱き合っていた。 二人とも落ち着いてきたころ、桐乃は俺に強く抱き着いたまま口を開いた。 「……返事、聞かせてよ…………」 「その前に……俺も伝えたいことがある。…………桐乃」 桐乃の腕を解き、再び向き合って座る。俺は桐乃の瞳をじっと見て――― 「俺と結婚してくれ」 「やっぱり……なかった事には……できない。俺の気持ちは本物だからな。」 「…………京介……。」 「よし! 結婚すっか」 「……うんっ!」 俺と桐乃は目を腫らしたまま笑顔で見つめ合う。すると桐乃はなにか思いついた顔をして俺から少し距離をとり正座し直した。 そして、両手をちょこんと床に添え――― 「ふつつか者ですが、よろしくお願いいたします」 あれ? 俺の妹ってこんなに可愛かったっけ? …………いや、ここはこうだろ。 ―――俺の嫁がこんなに愛しいわけがない。 ってな。 「ねえねえ今のどうだった?」 「えっ……?」 「だ~か~ら!『ふつつか者~』ってヤツ、ちょー可愛かったっしょ?」 「……は? あ……ああ、か…可愛かった……ぞ……?」 「でしょ! でしょ! アレね、聖夜たんがお兄ちゃんにプロポーズされた時に返した返事なんだ~」 「…………な、な…んだ、と…………?! …………つか! おまえとクリスマスの日に聖夜ルートクリアしたよな……? そんなシーンはなかったはず……だが…………」 「ふふん! すべてのルートをクリアするとね、聖夜たんの隠しルートが解禁する仕様になってたみたい。 しかも! 選択肢を一つも間違えちゃいけないって条件付きでさ! いやあ苦労したぁ! あたしさ、@Wikiとか見ないタイプじゃん? やっぱ自分の力で攻略したほうが感動とか全然ちがうし? 『おしとやか聖夜たん』は掲示板とかで噂になってたんだケド、あ…『おしとやか聖夜たん』てのは聖夜たんの隠しルートの通称ね。 でね、それが結構反響が強くて賛否両論なワケ! 『あざとい』とか『不自然』みたいな意見もあったケド、 『デレデレ聖夜たんサイコー』とか『おしとやか聖夜たんキターーー』みたいな意見も多かったんだよね~。 すっごい気になるじゃん? もしかしたらなにか参考になるのカモしんないし? だからあんたと一緒に全ルートはクリアしたけど、 完全コンプは二人の時間をなるべく減らさないように一人の時間も作ってさ、ようやく『聖夜たん隠しルート』を出したワケ! そしたらさ! ちょー聖夜たんがおしとやかで可愛くて! で、極めつけに『ふつつか者ですが、よろしくお願いいたします』じゃん?! もうこれはいつか使おうと思って、“京介には”内緒にしてたんだ~、にひひっ。 …………てっ! ちょっとあんたちゃんと聞いてんの?!」 「エ…エ…エロゲーの台詞かあああぁぁぁあああ!!!!」 ~終~ ----------
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俺の名前は高坂京介。ごく普通の高校生だ。 私立きらめき高校に入学し、俺は、特に憧れてもいない幼馴染みと毎日登校している。 が、特に恋仲に発展することもなく、すでに二年生へと進級していた。 マズイ。 このままでは、俺のエピローグが―― 『思えば、勉強ばかりしていたなあ』 この一文で、三年間の青春が片付けられてしまう。それは嫌だ! と、思っていたのだが。 高校二年生の夏、俺の物語は劇的な変化を迎えることとなった―― 「っと」 「あっ……」 以上。妹との出会いのシーンである。 階段を下りたところで盛大にぶつかり、見事フラグが立ったというところだ。 んで。 本日は、日曜日。 日曜日といえば、女の子を誘わないと始まらないよな。 さっそく俺はケータイを取り出し、電話帳を呼び出す。 『田村麻奈実』『赤城浩平』 ……こまったぞ。よく考えたら、妹の電話番号を知らないじゃないか。 こういうときは、こいつだな。 Prrrrr。 『もしもし』 「よう、赤城」 『なんだ、おまえかよ』 「俺で悪かったな」 『まぁいいや。で、なんの用だ?』 『女の子の電話番号を聞く』 『女の子の評価を聞く』 「女の子の番号を教えてほしいんだけど」 『いいぜ、誰の番号が知りたいんだ?』 「俺の妹の番号なんだけど」 『知らねーよ』 「チッ……使えねーやつだな」 『おいおい、ひどいこと言うなぁ』 「知らねーならいいわ、じゃあな」 ピッ。 こうして、俺の休日は過ぎていった。 時は流れて、俺は三年生になっていた。 先日、遂に妹の番号をゲットしたものの、強制イベント『妹の留学』が発生し、それを連れ戻すイベントをこなしてきたばかりである。 んで。 本日は言うまでもなく、日曜日だ。 なぜ日曜なのかと聞かれると、正直、俺にもよく分からないのだが。 俺たちの住むこの世界では、日曜や祝日しか女の子を誘えない不思議な力が働いているのだ。 しかも、一日に一人までしか電話をかけることが許されないという掟もある。まったくもって不便極まりない。 それはさておき、俺は電話帳を呼び出す。 『高坂桐乃』『五更瑠璃』『槇島沙織』 『新垣あやせ』『赤城瀬菜』『田村麻奈実』 『赤城浩平』 一番最初に登録されてある番号をプッシュする。 Prrrrrr。 『なに?』 ワンコールでつながった。 「よう、桐乃。元気か?」 『は? あんたの部屋の隣にいますケド』 「あ、ああ、そうだったな」 『で、なんか用?』 「えっと、な――」 『デートしようぜ』 『女の子の評価を聞く』 「女の子の評価を教えてほしいんだけど」 『ちっ……ウザッ』 と、言いながらも、桐乃はちゃんと評価を教えてくれた。 こんな感じ。 黒――(●´ω`●) 沙――(@ω@) あ――ヽ(`Д´#)ノ ●~* 瀬――(*`ε´*) 麻――(●´ω`●) 「さんきゅーな。ちなみに、おまえの俺への評価はどんな感じなんだ?」 『……聞きたい?』 「いや、やっぱいい……」 『んで、他に用は?』 「デートしようぜ」 『キモッ』 ぷつっ。ツーツー。 「うーん、機嫌が悪かったみたいだ」 またある日のこと。 下校中に、妹の姿を発見した俺は、 『一緒に帰ろうと誘う』 『一人で帰る』 「おーい」 「ん? なんだあんたか……なに?」 『桐乃』『桐乃さん』『桐乃ちゃん』 『高坂』『高坂さん』『高坂ちゃん』 『きりりん』『まるりん』『ラブリーマイシスター桐乃たん』 「桐乃たん、一緒に帰ろうぜ」 「きもっ、一緒に帰ってご近所さんに噂されると恥ずかしいから、五メートル以内に近づかないで」 「………………」 うーん、まずかったみたいだ。 後日。 俺は、念願のデートの約束を妹と取り付けたのだが。 「お兄さん」 「はい」 「桐乃をしつこくデートに誘っているそうですね」 「いいぇ」 「語尾が聞き取り辛いです」 「いいえ!」 「大声を出さないでください。不快です」 どうしろってんだ! ちゅーか、たかだか、十三回ほど電話でデートに誘ったくらいで大ゲサなやつだな。 これくらい、ちょっぴり妹想いの、普通の兄貴の範疇だろうが。 「これ以上、桐乃に付きまとっていると…………ブチ殺しますよ?」 「わ、わかったわかった! だからその光るモノはしまうんだ!」 くっそぉ……こいつなんなんだよ……俺の恋路を邪魔しやがって。 今度からゲートキーパーあやせと呼んでやろうか……………………はっ! …………思い出した。 そういえば、あやせの好感度の表示部分に『爆弾』のようなものが点灯していたような……。 いかん……桐乃一筋になりすぎて、爆弾を放置していた代償がこれか! このままだと、俺のエピローグが―― 『思えば、入院ばかりしていたなあ』 この一文で、三年間の青春が片付けられてしまう。ていうか、普通に入院は嫌だ! 今だから明かすが、俺があっちにフラフラこっちにフラフラしていた原因がこれ(爆弾)だ。 いやー……ほんと、このシステムさえなければ、初っ端から妹ルート一直線で済むんだけどさ、背に腹はかえられないというか、いのちだいじに、みたいな。 ということで。 「あやせ、デートしようぜ」 「な、何を企んでいるんですかこの変態!?」 爆弾除去作業です。 「まぁ……別に嫌なら無理にとは言わないが」 一応、誘うという行為だけでも、爆弾は消えてくれるしな。 「だ、誰も嫌だなんて言ってないです!」 「ちょ、襟を締め上げるな! 苦しい!」 殺す気か! あやせは咳払いをし、 「じゃ、じゃあ……来週の日曜日に公園で待ち合わせということでいいですね」 「あ、ああ」 と、デートの約束をしたものの。 来週の日曜日は、桐乃とのデートも取り付けてある。 そう。これが、世にも恐ろしい、ダブルブッキングというやつだ。 で、日曜日。 「さーてと、今日はどこで待ち合わせだったかな」 『公園で待ち合わせ』 『駅前で待ち合わせ』 「そうだ、今日は駅前で待ち合わせだった」 というわけで、俺はいそいそと駅前に向かうのであった。 「よう、お待たせ」 「別に待ってないし」 桐乃はそう言ってるけど、実は結構待ってたんじゃないか? まあ、あえて深くは聞かないでおこう。 「そっか、じゃあどこ行く?」 「あんたが決めていいよ」 そうなっちゃうよね。 さて。 『定番だけど、映画に行こうよ』 『ショッピングでもするか?』 『実は、俺、ジャンク屋に行きたいんだ』 「定番だけど、映画に行こうよ」 「……まぁ、いいケド」 現在、上映中の映画は、『リトルシスターズ』というアニメ作品のようだ。 鑑賞を終え、出てきたところである。 さて、彼女の反応は…… 「っあ~~~~~~~~~~! 面白かった! 大ッッ満足!」 『良かったな』 『うるさいよおまえ』 『俺も楽しかったよ』 「俺も楽しかった……かな」 「ほんと?」 「おう。でも、楽しく感じたのは、おまえと一緒だったからかもな」 「き、キモ……」 よし、バッチリいい印象を与えたみたいだぞ! 妹は『キモ……』って言ってるけれども――バッチリいい印象を与えたみたいだぞ!!!! その後、追加デートが発生し、俺と桐乃はスイーツショップでいちゃいちゃするのであった――――。 どっかーん! Prrrrrr……。 Prrrrrr……。 「はい」 『オイオイ! やっちまったなぁ!』 「いきなりなんだよ、赤城。なんか用か?」 『実はな……』 ――どうやら、俺があやせを傷付けたという噂が流れているらしい。 『こりゃあ、あやせたんに嫌われちまったな」 「………………」 『ちなみにみんなの評価は――』 桐――(*´д`*)ハァハァ 黒――ヽ(`Д´#)ノ ●~* 沙――(@ω@) あ――ヽ(`Д´#)ノ ●~* 瀬――ヽ(`Д´#)ノ ●~* 麻――ヽ(`Д´#)ノ ●~* 『こんな感じだぜ。じゃあ、フォローがんばれよ。おっと、別に瀬菜ちゃんには電話しなくてもいいぞ? じゃあな』 ど、どうしよう…………! 魔の、爆弾連鎖地獄が、現実のものにっ……! と、一瞬、思ったのだが。 どうやら桐乃は、他人の爆弾の影響を受けないようなのだ。無敵だな。大倉さんばりのチートキャラって感じか。チョロい女である。 それに、なんかよくわからんが、はぁはぁ言ってるし。うむ、このまま攻略を進めよう。 他の連中の爆弾を、どっかんどっかん爆発させながら妹とイチャコラするのも、また一興だ。 んで! ――時は流れて、バレンタインデー当日。 俺の高校生活は、あと幾日も残っていない。 高校生活最後のバレンタインデー。今年くらいはいい思い出を残し、有終の美を飾りたいものだ。 が。 えー……何を隠そう、すでに帰宅しているのである。 現在、収穫は0。ゼロだ。何度カバンを確認しても、零なのだよ、メーン。 まあ、わかってたけどさ。爆弾を放置した結果、こうなるってことくらい。 しかし……だな、桐乃からももらえないのは、おかしい。腑に落ちない。 だってさ、あいつの好感度ってMAXときめき状態だろ? なんでチョコ持ってきてくれねえんだよ。 もしかして……あのヤロウ、今日バレンタインデーだって忘れてるんじゃ……? いや、さすがにそれは………………ありえるの、か? 『あのー、桐乃、さん? ……チョコとか用意してないんすかね?』 『は? なんで?』 『いや、だから、バレンタインのさあ……』 『あっ……今日バレンタインだっけ』 『…………』 ………………。 普通に凹むなーこれは。 ていうかひょっとして、マジでこんな展開があんの? いやいや、そんなはずないって。神が許さないってこんな展開。 と。 自分を励まし続けているものの、冗談抜きで不安になってきたぞ。 なぜなら、 「もう、夜の十一時だぞ……うそだろ……」 マジかよ……くそおっ、この台詞を言う時間がきてしまったじゃないか……。 「はぁ…………今年はひとつもチョコ――」 と、そのとき。 こんこんっ。 控え目に、ドアがノックされ、 「入るよ……」 妹が現れた。 「ど、どうした? こんな夜中に」 俺は慌ててベッドから身を起こす。 「あの、ね?」 俯きながらベッドに腰掛け、兄妹の距離を超えて寄り添ってくる桐乃。 そして、頬を染めながら、上目遣いで俺を見上げ…… 「遅れてごめん……ずっと渡そうと思ってたんだけど、恥ずかしくて……」 「――――」 ぐはぁ! なんだこの可愛い生き物は! もうチョコとかどうでもいい! いや! 本当はよくないけど! でも、どうでもよくなるくらいの破壊力を持っていたのは間違いない。 「これ……バレンタインチョコなんだけど、受け取ってくれる?」 「あ、当たり前だ。……今日一日、ずっとおまえが来るのを待ってたんだぞ」 「そ、そうなんだ……じゃ、これ」 桐乃が差し出してきたのは、ちいさなハート型のチョコレートがひとつだった。 そのまま手渡してくれるのかと思いきや、彼女はラッピングを綺麗にはがし始めた。 「い、言っとくけど……口に触れたらコロスかんねっ」 これ以上ないくらい真っ赤になって、ツンデレ台詞を口にしながら、愛情がたっぷり詰まっていそうな(形はいびつだが)そのチョコをくわえた。 そして、 「ん……」 やばい……これはグッときた。なんと素晴らしいシチュエーションだろう。もし、狙ってこれをやってるとすれば、完全に小悪魔系美少女だなコイツ。 ちょっとカメラさん、ちゃんと撮ってる? 絶好のイベントCGのポイントだよコレ? オッケー? …………よしっ。 俺は、ごくりと喉を鳴らし、 「じゃ、じゃあ……いただくぞ」 「…………」 妹の肩に手を置いた。 すると、わずかに彼女の緊張が伝わってくる。 そのまま、ゆっくりと顔を近づけて―― カツン。 「あ」 唇に触れないよう慎重になりすぎて、歯がチョコに当たってしまった。 「むぐ……」 しかも、その拍子に、チョコを桐乃の口に押し込んでしまったようだ。 「わ、わりぃ……桐乃、もう一回くわえ直してくれ」 いかんいかん、俺も緊張していたようだ。やり直しである。 チョコは桐乃の唾液まみれになってしまっただろうが、問題ない。ちょっぴり性的な絵面になるが、なんせひとつしかチョコがないからね。これは仕方がないことなんだ。 言っておくが、狙ってやったわけじゃないぞ? ……勘違いしないように。 と。 「……………………」 チョコを口の中に放り込まれた桐乃が、プルプルし始め、 「……………………」 もの凄い勢いで顔色が悪くなっていく。 「き、桐乃?」 「………………………………………………ま」 で、 「まっず――――――――――――いっ!!!」 大噴火した。 「だ、大丈夫か?」 「ちょ、超まずいじゃん! そんなばかな! どういうこと!」 「えーと……ソレ、おまえが手作りした……んだよな?」 「う、うん……」 「ど、どうしてそんな物体Xになった?」 「えと……去年と同じ作り方で作って……」 「…………」 この時点で俺はピンときたのだが、たどたどしく説明する桐乃を止める気にはならなかった。 ちゃんと最後まで聞いてあげよう。 「そ、それでねっ……去年はあやせもあんたも美味しかったって言ってたし、お父さんも喜んでたから……」 「すまん、前に食べたときは、嫌がらせかと思って強がった」 俺は素直に謝った。 「え! で、でも! あやせだってパクパク食べてたし!」 「あやせはおまえの作ったものだったら、毒でも完食して、美味いって喜ぶよ」 ド根性の女なのだ。あいつが男だったら、桐乃を取られていたかもしれん。 「あやせめぇ……ちゃんと感想言ってくれないと意味ない――ってか、もう一回り大きかったら死んでるトコだった」 「そ、そうか……」 なにがどうなったら、チョコレートから毒物を練成できるんだ。 「桐乃、そのチョコ、余ってないのか?」 「一応、余ってるけど、なに? もしかして自殺志願者?」 そこまでなんだ。おまえのチョコの破壊力って。 ――という感じで、俺の高校生活最後のバレンタインデーは過ぎていった。 収穫は一個だったが、量よりも質――もよくなかったけど、愛があればそれでいいのだ。 話は飛んで。 卒業式前日、下校しているとき。 「あ、兄貴っ!」 俺の前に妹が現れた。 「おっ、桐乃か。どうした?」 「えと……あ、あんたがどーしてもって言うなら、一緒に帰ってあげなくもないケド?」 『一緒に帰る』 『残念ながら俺様は忙しいのだ』 「そーだな、一緒に帰るか」 「そっか、よかった――じゃなくて! そんなにあたしと帰りたいわけ? しょーがない。超可愛い妹と一緒に帰れること、感謝しなさいよねっ」 「へいへい」 というわけで、並んで帰っていると、 「明日、卒業式だね」 卒業式の話題を振ってきた。 「おう」 俺たちは、明日、それぞれの学校を卒業することになる。 「ねぇ、あんたの教室と、席の場所教えてよ」 「は? なんで?」 「いいから」 「ま、いいけどさ、えっとな――」 そして翌日。 『はあ……今日でこの学校ともお別れか――ん? あれ?』 机の中からはみ出した、白い封筒。……あやしい。 俺はそれを手に取る。 『えーと、なになに……お話があるので、伝説の樹まで来てください、か』 ふむ…………どうやら、無事、ハッピーエンドを迎えられるというわけだな。 というわけで、俺は浮き足立ちながら伝説の樹へと向かったのである。 『はぁ、はぁ……』 息を切らす俺の前に現れたのは………… 『急に呼び出してすまない、高坂』 『お、おまえ!』 浩平兄貴だった。……うそだあ。 『どうしても今日、おまえに話しておかなければならないことがあったんだ』 『な、なんの話だ?』 お、俺は、おまえにフラグを立てた記憶はないのだが!? 『実は……俺……』 うわあ! やめてくれ! 聞きたくない! 『おまえが好きなんだ!』 ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああ! 『ちょ、ええっ!? ま、マジで?』 『マジだ』 やめろ赤城! 真顔で言うな、ガチっぽいから! 冷静になれ、まだ引き返せる! これ以上はマジでやばいぞ! 『高坂、俺はおまえが好きだ』 『えっと……実はおまえが綺麗な女の子――みたいな、オチは……?』 なんで俺は『赤城が実は女の子ならいいよ?』みたいな言い方をしてるんだ……ツッコむべきはそこじゃないだろ! 『ない! 俺は正真正銘、男だ! いいか、高坂。これはガチなんだ』 『ガチなの!?』 『ああ。俺は――ガチホモなんだあああああああああああああああ!』 卒業式の日に大声で何を告白してるんだこいつは! 『さあ、高坂』 とても爽やかな笑顔で手を差し伸べてくる赤城。伝説の樹の裏から『でゅふふふふふ!』という嫌な祝福の音も響いている。 『俺と伝説になろう』 うわあああああ! も、もう駄目だ! 断れない! システム的な意味で! 『うっ……うう……赤城、実は俺も、おまえのことが――』 ジリリリリリリリリ。 「――はっ!」 ゆ…………夢か。 はあ~っ…………………………よかったああああああああああああああ!! 夢オチなんて二度とごめんだ、とは言ったが、この安堵感は前回の比じゃないぜ! 危うく赤城エンドを迎えてしまうところだったんだからな…………どこぞの腐女子が『ちぃっ! もう少しだったのに!』と、歯軋りしている様子が目に浮かんだが、本当に夢でよかった。 そして、卒業式が終わり、 「高坂、これからみんなで遊びに行くんだけど、おまえもどうだ?」 「わ、悪いな、遠慮しとくわ」 「どうした? 顔赤いぞおまえ?」 「な、なんでもねぇよ!」 変な夢を見たせいで、赤城と顔を合わせづらい。 と。 「これは……」 俺の机からはみ出していたのは、一通の手紙だった。 中身を確認してみる。 『伝説の樹の下で、待っています』 「差出人の名前は…………書いてねえな」 とにかく行くしかないだろう。 俺は、伝説の樹の下へと駆け出した。 「はぁ……はぁっ……」 息を切らしながら、顔を上げると―― 「桐乃」 妹が待っていた。 「来て、くれたんだ」 「あの手紙、おまえだったのか」 「うん……」 頬を染めながら彼女は答える。ふう~…………よかった。赤城じゃなくて。 「ごめんね、こんなところに呼び出したりして」 「構わねーよ」 「あのね、今日はどうしても、あんたに話したいことがあったの。……聞いてくれる?」 「ああ」 いまさら嫌だとは言うまい。 この二年間、おまえと仲良くなるために過ごしてきたんだから。 「えっと、何から話せばいいのかな……まだ考えが纏まってないんだけど」 「ゆっくりでいいよ。ちゃんと最後まで聞くからさ」 俺は妹の頭に手を置いて、そう言った。 「うん……ねぇ、兄貴」 「なんだ?」 「いままでずっと、あたしのワガママを聞いてくれて、ありがとう」 「へっ――どういたしまして。――いまさらどうした? 気持ち悪いぞ?」 「あたし、兄貴に――ううん、京介に伝えたいことがあるの」 「………………」 俺は、 「あたしね……」 「待て、桐乃」 妹を止める。 決めていたんだ。自分から告白するって。 いまこそ『告白する勇気』を見せなければ。 「俺はおまえが、」 「その先は言っちゃだめぇっ!」 「す………………へっ?」 桐乃の怒号が響き、告白が遮られる。 えっと……なんだ。その……もしかして告白する前に振られた的な? 一瞬、呆然としてしまったのだが、そういうわけではなかった。 「もしかしてあんた知らないの? 伝説の樹の下では、『女の子から告白』しないと意味ないんだよ? 男から告白するとかばかじゃん?」 妹は、腰に手を当てながら俺の告白を止めた理由を言った。 「そ、そうなんだ……知らなかった」 「たく……あんたはあたしの告白を最後まで聞いてればいいの……てかっ、どこまで台詞言ったっけ?」 「『あたしね』までだ」 「そうそう、あたしね……」 なんだろう。ドラマのリテイクみたいになっちゃった。 「この二年間で、たくさん想い出ができた。あんたの妹でよかった」 「俺もだ。おまえの兄貴で、よかった」 「そっか。でもね、あたしは…………もう妹だけじゃやだ」 「桐乃……」 「あたし、あんたのことが! ――じゃなかった」 照れくさそうに「もう一回ね」とさらなるリテイクを要求する桐乃。グダグダだな。まぁ、それが俺たちらしいってことかもしれないが。 「あなたのことが好き……だから」 だから妹だけじゃ嫌だ、と。 恋人になりたいと彼女はそう伝えてくれた。 「俺も、おまえのことが好きだよ」 「……ほ、ほんと?」 「ああ、ほんとだ」 「…………嬉しい」 俺も嬉しい。 「ねぇ」 「ん? どうした?」 「今日からあんたのこと、京介って呼ぶから」 こうして、俺の高校生活三年間は幕を閉じた。 思えば、エロゲーばかりしていたような気がするなあ。 ともあれ、無事卒業できてよかった。 第一志望の大学にも合格できたし、何も言うことはないな。 そういえば桐乃は、俺たちが通っていた高校とは違う高校に通うことになった。 桐乃は、いつも俺のそばにいて、世話を焼いてくれている。 こんな素敵な子が、ずっとそばにいてくれたことに、どうして俺は気付かなかったんだろうな。 でも、もう二度と離さない。 この学校の伝説は成就されたのだ。永遠に二人は幸せになれる。 なんて、伝説の力を借りなくとも、俺が桐乃を幸せにするから何の心配もないのだが。 つまり、なにが言いたいのかというとだな。 俺たち二人の愛は永遠に続く――ってことだ。 おしまい。